ブラック企業が最も恐れる「かとく」とは…電通に立ち入り調査、過去にABCマートも送検

 

 東大卒の新入社員、高橋まつりさん=当時(24)=を自殺に追い込んだ広告大手代理店の電通に、厚生労働省の「過重労働撲滅特別対策班」(通称・かとく)が立ち入り調査を断行した。かとくは、いわゆる「ブラック企業」対策として設けられた特別なチーム。長時間労働が美徳だった時代は既に終わった。かとくの狙いは、是正勧告を受けても改善しなかった電通に“鉄槌(てっつい)”を食らわせるとともに、この問題を契機に「長時間労働は犯罪だ」という認識を広めることだ。

 目を光らせる7人の精鋭

 黄色い腕章を付けたスーツ姿の男女が、電通本社ビル(東京都港区)にさっそうと乗り込んでいった。14日、昨年12月の高橋さんの自殺を受けて、長時間労働が常態化しているとみた厚労省は、電通にかとくを送り込んだ。

 かつては東京地検特捜部による家宅捜索が新聞やテレビなどで大きく取り上げられたが、最近は検察も元気がない。

 かとくは従業員を酷使する悪質な「ブラック企業」が問題となっていた昨年4月に創設された。東京労働局と大阪労働局に置かれており、東京では監督課長をトップに7人のベテラン労働基準監督官がメンバーに任命されている。そのほか地方の労働局には「過重労働特別監督監理官」が各1人、計47人おり、連携して調査に当たっている。

 電通は沖縄から北海道まで支社や子会社を抱えており、各地の労働局の監督官が一斉に立ち入り調査を行って、全社的な実態解明に乗り出している。

 かとくのメンバーは労基署が行う通常の業務を行わず、違法な長時間労働が疑われる事業所への監督指導に専従している。主なターゲットは、全国展開する大企業だ。

 過去には「ABCマート」がターゲット

 かとくが初めて立件したのは、靴販売店「ABCマート」を全国展開する運営会社販売チェーンの「エービーシー・マート」。東京都内2店舗で横行していた100時間を超える残業について、労基法違反の疑いで、東京地検に書類送検した。

 さらに今年1月、大手ディスカウント店「ドン・キホーテ」の違法残業も刑事事件化した。そのほか、外食チェーン店も含めて、かとくの書類送検事案は発足後、4件に上る。

 電通のような大会社を立ち入り調査することは、「一罰百戒」の意味があるのだろう。塩崎恭久厚労相は「こういうことが起きないように再発防止をどうするか、必要なことはどんなケースでもやっていかなくてはいけない」と話した。

 「三六協定」にメスを

 長時間残業が横行しているのは、労働基準法36条で規定されている労使協定(三六協定)の存在がある。

 労働基準法では、「1日8時間、週40時間」が労働時間の限度になる。ただ、労使協定を労基署に届ければ、上限を超えることも可能。電通は所定外月間残業を70時間(法定外50時間)と定めていたが、協定では上限がいくらでも定められることになってしまう。

 厚労省は「月の残業の上限は法定外45時間以内に」と告示しているが、法的な強制力はなく、「告示に反しているが、受理しなければならない」というのが実情だ。45時間という数字は、医学的な根拠があり、この時間を超えた残業が慢性化すると、過労死の危険性が高いという。

 そもそも労使協定自体が守られていないことが問題だ。三田労働基準監督署(東京)は、労使協定の定める70時間を超えて、高橋さんが「105時間」の残業を強いられていることを認定した。

 今回の問題を受け、政府・与党からも「残業の上限時間を法律で明記すべきだ」「長時間労働の罰則強化を」との声が上がっている。電通への調査はまだ始まったばかり。労働局がどのような判断を下すのか注目される。