仕事中の座り過ぎは健康に悪影響 昇降机や遊具設置で業績向上

 

 ≪健康経営≫

 仕事中の座り過ぎは健康に悪影響があるとして、オフィス環境を変える企業が増えてきた。立って作業できる机を導入したり、体を伸ばせる遊具を置いたりといった工夫を凝らしている。社員の健康増進を業績アップにつなげる健康経営の考え方や医療費削減の観点からも注目されている。

 東京郊外に本社を構える楽天。オフィスでは、座って作業をする人に交じり、自分の好きな高さの机に向かい、立って仕事をする人の姿が目立つ。

 昨年本社を移転する際、「座り続けるのは体に悪い」という考え方から高さを自由に変えられる机を導入。大柄な外国人の社員も増え、日本の標準的な机では合わない人が出てきた事情もあった。

 立って仕事をするのは、特に長時間デスクワークをするエンジニアが多く、社員の反応は上々だ。「立っていると周りが見え、コミュニケーションが取りやすい」「姿勢を変えることで発想や気分を変えられる」などだ。

 電線大手のフジクラは小学校の校庭などに置かれ、ぶら下がって遊ぶ遊具の「うんてい」を職場に設置した。パソコンを続け猫背になった体を伸ばしリフレッシュしてもらおうという配慮だ。

 「打ち合わせで行き詰まると『うんていやろうか』という話になる」(人事担当者)。女性社員(25)は「体が伸びて気持ちがいいし、気分転換になる。男性も結構ぶら下がってます」と話す。

 同社は2009年から社員の健康を会社の活力につなげる取り組みを開始。歩数計の配布などを通じ、意識を高めてきた。医療費増の要因にもなるメタボと判定される社員が減ったほか、売上高、営業利益なども伸びた。

 NTTソフトウェア(横浜市)はオフィスの壁を取り払い、サッカー場並みの全長110メートルの通路を障害物なく歩けるようにした。「席にいるかどうかがすぐ分かるので、気軽に立ち寄って打ち合わせができる」(同社)。社員からは「歩く習慣が身に付き、普段も運動するようになった」といった声も上がる。

 座り過ぎ防止の取り組みの背景には「長時間座っても心地いい椅子作り」を追究してきたオフィス家具業界の反省がある。「椅子を良くしても肩こりや腰痛を訴える人を減らせなかった」とオフィス家具大手イトーキの担当者は言う。

 同社は日常の仕事の中で体を動かす「ワークサイズ」を提唱。昇降型机やストレッチができる場所や歩幅、姿勢のチェックができる通路などを設けたオフィスを提案中だ。

 長時間座ったままで行うパソコン作業などの弊害については、早稲田大の岡浩一朗教授(健康行動科学)も警鐘を鳴らす。「週末に運動しているから、平日はじっとしていても大丈夫と思いがちだが、それは間違い。心疾患や糖尿病などのリスクが上がることに気付いてほしい」