進化するペースメーカー、MRI対応型が主流に 4年間で普及
体内に埋め込み、心臓の働きを助ける「ペースメーカー」。装着者は高齢者を中心に約40万人に上るとされるが、これまで機器の動作に磁場が影響するため「MRI(磁気共鳴画像装置)」を使った精密検査を受けられなかった。近年、MRI対応型が登場し、急速に普及しつつある。(玉崎栄次)
4年間で普及
ペースメーカーは、脈拍が遅くなり軽い動作でもめまいや息切れを起こす「徐脈性不整脈」の治療に使われる。金属のケースに電子回路や電池が内蔵された本体と、心臓に電気刺激を伝えるリード線で構成。手術で心臓の近くに埋め込み、機器が脈拍の乱れを感知すると、心臓の筋肉に電気刺激を与え脈拍を整える。
MRIは、強い磁力で水や脂肪に含まれる水素原子の分布を読み取り、画像化できる装置。丸い筒のような大型の機械の中に横たわり検査する。脳や関節など水分を多く含む軟らかい組織の描出に定評がある。しかし、MRIに対応していないペースメーカーは磁力で機器が誤作動したり、リード線が発熱したりする危険性があるため、装着者のMRI検査は禁止されていた。
平成24年、医療機器メーカー「日本メドトロニック」(東京都港区)が国内初のMRI対応型を発売したのを皮切りに、国内の主要メーカーも扱うようになった。いずれも磁力の影響を受けやすい部品を減らしたり、発熱を抑えられるリード線を使用したりしている。
日本医学放射線学会などが定めた基準をクリアした特定の施設に限られるなどの条件はあるものの、装着者の多くが検査を受けられるようになった。
診断に効果発揮
ペースメーカー製造業者などでつくる「日本不整脈デバイス工業会」(文京区)によると、毎年約4万人が新たにペースメーカーを埋め込み、装着者は約40万人に上る。日本メドトロニックの調査では、装着者の平均年齢は74歳で9割が65歳以上という。
杏林大医学部の似鳥俊明教授(放射線科)によると、MRIは高齢者に患者が多い関節の病気の診断に効果を発揮する。膝の関節の軟骨がすり減って痛みが出る「変形性膝関節症」や、足の血管が狭まるなどして歩行障害が起きる「閉塞(へいそく)性動脈硬化症」などは、MRIによる検査が早期発見・診断につながる。
また、「脳梗塞」や「くも膜下出血」などの脳血管疾患の診断にも有効。似鳥教授は「後遺症が出ず、治療が可能な初期の脳梗塞の診断には、病変をより詳細に見ることができるMRIによる検査が欠かせない」と説明する。
安心感も
「対応型を付けていたから検査を受けられた。もし、対応型に交換していなかったらと思うと…」
こう話すのは、重度の不整脈を抱え、埋め込み型ペースメーカーを使用する無職の女性(72)=板橋区。平成23年にMRI対応型でないものを装着したが、昨夏、主治医の勧めで対応型に交換した。その半年後の今年2月、交通事故に遭い、脳挫傷と骨折で救急搬送された。ペースメーカーを交換していたため、MRIで脳の精密検査を受け、異常がないことを確認できたという。
年間約160人の患者にペースメーカーの埋め込み手術を手がける日本大医学部の中井俊子准教授(循環器内科)は「MRI検査をしたくても受けられず、CT(コンピューター断層撮影装置)で代用したり、検査を諦めたりしていたペースメーカー使用者は多かった。患者らが抱えていた不安を解消できたことは画期的だ」と話している。
関連記事