たとえ「1000円のコーラ」でも満足できる 売りたければ値段を高く設定せよ
提供:PRESIDENT Online「モノが売れない時代」と言われて久しい。だが、そうした状況でも、値下げ競争に陥らず、高額商品を多くの人に売って成功する方法がある。
顧客が「価値」を感じるものを高い値段で売る
「一通りのモノは持っている」「特に必要と感じるものはない」という今の消費者に、何をどう売ればいいのか。ブレインゲイト社長の酒井光雄さんはこう言う。「価格競争を脱するためには、高くても買ってもらえる『価値づくり』というマーケティング視点を持つ必要があります」。
事例を挙げよう。スーパーや自動販売機では、コーラは1本100円程度で売られている。ところが高級ホテルのザ・リッツ・カールトンは、同じコーラを1000円で売っている。
ルームサービスでコーラを頼むと、最適な温度に冷やされたコーラが、シルバーの盆に載って出てくる。コーラは高級そうなクリスタルのコップに入れられ、ライムと氷がついている。リッツ・カールトンのコーラは1000円払っても満足するようなおいしい飲み物として提供されている。つまり、リッツ・カールトンはラグジュアリー(贅沢)な環境で、最高においしくコーラを飲むという「価値づくり」をしているのだ。
では、マーケティングとは何か。マーケティング アイズ社長の理央周さんは、こう解説する。「経営学者のドラッカーが言っているように、マーケティングとは『自然に売れていく仕組み』をつくることなのです」。
顧客が価値を感じるものを提供できれば高くても100万人に売れる--。そのノウハウをプロから教わってみよう。
売り上げを伸ばすには、値下げして販売数量を伸ばすのが手っ取り早いと考える人も多いだろう。しかし、これこそが典型的な失敗パターンだ。たしかに値下げをすれば、一時的に販売数量が伸びる可能性はある。しかし、価格は安いほうに引っ張られやすく、いずれは競合も安売りを始めて値下げの効果がなくなる。その先に待っているのは、身を切る価格競争だ。
価格は「信じてもらう理由」の一つ
値下げをするのがいけないのは、「ブランド」が毀損(きそん)されてしまうからだ。ブランドという資産は、認知度やロイヤルティなどの複数の要素で構成されている。その構成要素の一つがパーシーブド・バリュー(知覚価値)。わかりやすくいえば、見た目の価値である。
では、どうすれば見た目の価値を顧客に感じてもらうことができるのか。それには何かしらの「信じてもらう理由」が必要だ。たとえば私はマーケティングについて本を書いたりセミナーを開いたりしているが、自分でマーケティングの専門家だと名乗るだけでは容易に信じてもらえない。
そこで、関西学院大学でマーケティングを教えているとか、かつてアマゾンやマスターカードといった有名企業でマーケティングを担当していたという実績を、自分を信頼してもらうための理由づけとして使っている。
じつは価格も「信じてもらう理由」の一つだ。消費者は、安い価格のものは価値が低いと考えやすく、逆に価格の高いものは、それだけで価値が高いと考える傾向がある。つまり価格が高いことが、消費者に「この商品は品質がいい」と信じさせる根拠の一つになるのである。
もちろん、価格が高いからといって本当に品質がいいとはかぎらない。しかし、人はある際立った特徴に影響を受けて、本来なら関係のない他の要素まで高く評価してしまうことがある。このことを心理学用語で「ハロー効果」という。
ハロー効果は、ネガティブな面でも表れる。値下げが危険だと私が主張するのも、「安いのだから価値も低いはずだ」という逆のハロー効果が働きやすいからだ。
たくさん売りたければ、むしろ価格を高めに設定すべきである。東京・新宿に「ケンズカフェ東京」という洋菓子店がある。
この店のガトーショコラは贈答品として人気で、たびたびメディアでも取り上げられている。ただ、開店当初はおいしいのにまったく売れず、頭を悩ませていた。
売れるようになったのは値上げをしてから。当初は500グラム1500円で販売していたが、何度か試行錯誤をしたのち280グラム3000円で売り出したら、飛ぶように売れ始めた。これぞまさにハロー効果。
もともとおいしい商品であることが大きいが、それに相応しい値付けをしたことでブランド価値も高まり、売り上げ増につながった。
ただ、ハロー効果は、効きやすい分野と効きにくい分野がある点に要注意だ。購入時に一生懸命検討する商品を「高関与商品」、そうでもない商品を「低関与商品」というが、ハロー効果は高関与商品のほうが効きやすい。これは高関与商品ほどニーズよりウォンツで買う、つまり感情が判断に影響するからだと考えられる。高関与商品を扱っている場合は、なおさら値下げは厳禁である。
マーケティングアイズ社長 理央 周 アマゾンジャパン、マスターカードなどでマーケティング・マネジャーを務めた後、2010年より現職。マーケティングに特化したコンサルティングなどに携わる。著書に『「なぜか売れる」の公式』ほか。
(村上 敬=構成 榊 智朗=撮影 PIXTA=写真)
関連記事