【道標】パリ協定のルール採択 温暖化対策推進 政策や制度見直し急務


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 ポーランドでの気候変動枠組み条約第24回締約国会議(COP24)はパリ協定の実施規則(ルールブック)に基本的に合意した。2015年に採択されたパリ協定は、今世紀後半に脱炭素社会の実現を目指す長期目標を定めている。また、各国が5年ごとに自国の削減目標を引き上げる方向で検討し、国際目標として提出することを義務づけ、長期目標に徐々に近づいていく仕組みもある。

 実施規則では、各国が誠実に対策を進めていることが相互に見えるよう、提出する情報や、対策の進み具合を報告し、国際的に検証する手続きや、世界全体の進捗(しんちょく)確認のための手続きなどに合意した。

 COP24での合意は、米国の離脱表明にもかかわらず、パリ協定を共通の支柱として温暖化対策を進めていくという各国の明確な意思を示し、そのための制度を整えた。

 多国間協調よりも自国の利益を重視する政治的傾向が強まる中でも、地球規模の協調、多国間のルールづくりがなお可能であることを示したことも重要だ。

 7月の西日本豪雨、それに続く猛暑をはじめ、今年の日本はこれまでに経験したことのない規模の異常気象を経験した。風水害に伴う損保業界の保険金支払額は、過去最大だった04年度の7449億円を上回る見込みである。温暖化は、今や私たちの現実のリスクである。

 同時に、温暖化は次の世代にさらに大きな影響とリスクを背負わせることも分かってきた。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新の報告書は、世界の平均気温は工業化以前と比べて既に約1度上昇しているが、1.5度の上昇でも熱波の被害や生態系への影響をはじめ温暖化のリスクが今より高く、2度ではもっと高くなると予測する。

 しかし、現在の各国目標を積み上げても気温上昇は2度を超える見通しだ。1.5度ならば50年ごろに、2度ならば75年ごろには温室効果ガスの排出を実質的にゼロにするような速度と規模での大幅な削減が必要だ。IPCCは、特にここ10年の取り組みが温暖化の影響とリスクを低減し、削減対策のコストを抑える上で決定的に重要だとしている。

 COP24は、全ての国ができる限りの排出削減と適応策を取るという対策強化の緊急性を強調、20年までに各国が改めて削減目標を提出することや、50年をめどにした長期戦略を提出するというパリ協定の決定を再確認した。

 各国は脱炭素社会に向かうという明確で野心的な目標とビジョンを示す長期戦略を早急に策定することが必要だ。その上で、20年の新たな目標提出に先駆けて、脱炭素に向かうという目標と整合的なものとなるよう、石炭火力発電所の建設など現在の政策、制度を大胆に見直し、転換することだ。日本が今後、脱炭素化で世界を先導していくのであれば、これが喫緊の課題である。

【プロフィル】高村ゆかり

 たかむら・ゆかり 東京大教授。1964年島根県生まれ。国際法、環境法が専門。共編著に「気候変動政策のダイナミズム」など。龍谷大教授、名古屋大教授などを経て2018年10月から現職。