【寄稿】世界的な気候変動対策“引き上げ機運”の盛り上がり

COP24(2018年12月)に向けた世界の気候変動関連イベントのスケジュール
COP24(2018年12月)に向けた世界の気候変動関連イベントのスケジュール【拡大】

 ■COP24に向け、各国政府と非国家アクターの活動活発化

 □WWFジャパン自然保護室次長/気候変動・エネルギープロジェクトリーダー 小西雅子

 ◆記録ずくめの2018年夏

 2018年の夏は、気象庁に災害とまで認識された猛暑に見舞われたり、豪雨で甚大な洪水被害が発生したりしました。被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げ、1日も早い復旧・復興をお祈り申し上げます。

 こうした極端な気象現象は海外でも起きており、カナダ、シベリア、アフリカ、欧州などでは記録的な熱波と干ばつに見舞われ、特にギリシャやスウェーデンでは熱波にあおられて森林火災が発生し、人命が失われる事態になっています。

 WMO(世界気象機関)は、こうした熱波や降水量の増加は気候変動の長期的な傾向と一致していると伝えています。このまま温暖化が進展していくと、熱波や大雨といった異常気象の頻度は高まっていくことが予測されています。世界でもっとも防災体制が整った国の1つである日本では、温暖化による被害はこれまでやや遠い話だったかもしれませんが、多くの人にとって温暖化の進展に対する危機感は共通認識となってきたのではないでしょうか。

 折しも6月の通常国会で、気候変動適応法が成立したばかりです。温暖化の進展に伴って深刻さを増す異常気象への備えや、農業など様々な産業に対する影響に対して、国主導で各自治体が適応計画を立て準備することが、同法に定められています。適応計画をまだ持っていない自治体も多いため、ぜひ適応計画策定を加速させてほしいと思います。

 ◆COP24における2つの命題

 気候変動の影響に備えるとともに、温暖化の主な原因である二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出削減に真剣に取り組むことが大切です。

 2018年は、12月3~14日にポーランドで開催予定のCOP24(国連気候変動枠組み第24回締約国会議)に向けて、気候変動対策をめぐるグローバルな活動が世界各地で予定されています(表)。

 COP24には大きく2つの命題があります。1つは、2015年のCOP21パリ会議で成立したパリ協定のルールを決定することです。パリ協定は、世界の平均気温の上昇幅を産業革命前と比べて2℃未満に抑える(1.5℃を目指す努力をする)ため、今世紀末のなるべく早い段階で、世界の温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを掲げていますが、どのようなルールで運用していくかはまだ決まっていません。パリ協定が目的にかなうように実施されるかどうかは、ひとえにルールづくりにかかっているので、抜け穴がなるべく少ないルールをつくることが大切です。

 もう1つの重要命題は、各国がパリ協定に提出している削減目標・削減行動を引き上げようとする土壌がつくられるかどうかです。現状の削減目標では、2℃目標は達成できず、すべての国が約束を守ったとしても、3℃程度の気温上昇が見込まれているからです。

 この2つの命題に成果を出せるよう、12月のCOP24に向けて様々な仕掛けの会議・イベントが予定されています。

 ■非国家アクターが政府後押し

 COP24に向けた世界的な動きのポイントは、気候変動対策を積極的に進めようとする担い手が、世界的に政府以外に拡大していることです。もともと、COP20リマ会議で政府間交渉が一向に前進しないことに危機感を強めた自治体や都市、企業、投資家、市民などの非国家アクターが、政府よりも野心的な気候変動対策に向けて行動することを宣言し始めたことがきっかけで広がった動きでした。

 2017年6月、米国のトランプ大統領がパリ協定離脱を表明すると、米国の州政府、企業、教育機関などの非国家アクターがこれに対抗するために大集結し、「我々は連邦政府に関わらず、パリ協定のもとで温暖化対策を進める」として「We Are Still In」というイニシアティブを立ち上げました。これに力を得て、非国家アクターが気候変動対策を後押しする動きが、世界中で大きなうねりとなっていこうとしています。

 日本でも、脱炭素を目指す企業、自治体などの非国家アクターが7月6日、「気候変動イニシアティブ(JCI)」を立ち上げ、7月31日現在、154団体が参加しています。

 勢いのある非国家アクターたちが結成したイニシアティブは、国境を越えてつながり、2018年末のCOP24に向けて、様々な活動機会を設け、政府間の国際交渉を前進させようとしています。

 まず9月4~9日には、タイ・バンコクでCOP24の準備会合が予定されています。この会合では、COP24で決める予定のパリ協定運用ルールの交渉テキストのドラフトが作成されます。これがCOP24開催前の最後の準備会合となりますので、交渉ポイントの整理が可能な限り進むことが求められます。ただ、決めなければいけないルールは60以上の多岐にわたり、これまでの先進国VS途上国の対立を背景に、交渉は困難を極めています。

 こうした国連交渉を前進させようとするように、準備会合の1週間後の9月12~14日には米国・サンフランシスコで、非国家アクター主催の大規模なグローバル気候行動サミット「グローバル クライメート アクション サミット(GCAS)」が開催されます。このサミットには、日本のJCIとその参加団体も参加予定です。

 その翌週から米国・ニューヨークで始まる第73回国連総会と並行して開催される「Climate Week NYC2018」でも、1週間にわたりビジネス、政府、市民のリーダーたちが気候変動対策を議論します。

 10月8日には、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が、1.5℃目標への道筋を科学的に示す「1.5℃特別報告書」を公表します。この報告書には、各国の現状の削減目標・行動の引き上げを後押しする根拠になることが期待されます。

 さらに10月12日には、JCI主催の「気候変動アクション日本サミット(仮称)」が予定されています。アルゼンチンで開催されるG20(11月30日~12月1日)でも、首脳レベルで気候変動対策が議論されることになっています。

 政府と非国家アクターの活動が縦糸と横糸のように織り重なって、パリ協定の肝となるルールがCOP24で決まり、2℃未満、さらには1.5℃を目指せるような各国の削減目標・行動の引き上げ機運が醸成されることが期待されています。

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【プロフィル】小西雅子

 昭和女子大学特命教授。法政大博士(公共政策学)、ハーバード大修士。民放を経て、2005年から温暖化とエネルギー政策提言に従事。