■着目され始めた知的資産
特許庁の「中小企業知財金融促進事業」は、中小企業の知財活用支援の一環として、地域金融機関に知財の観点を踏まえた企業の経営支援(知財金融)の在り方を理解し、実践へつなげてもらう試みだ。区切りとなる事業開始から5年目を迎え、今後の行方が注目されている。
同事業で、地域金融機関に提供しているのは「知財ビジネス評価書」と「伴走型支援」だ。前者は地域金融機関の取引先企業に関し、その保有する知財を切り口とした定性的事業評価リポートを専門評価機関が作成するもの。後者は、金融機関が同評価書を企業に対する融資や本業支援に生かす際の課題解決を支援するものだ。
評価書、伴走型支援ともに公募方式で、枠はすぐ埋まってしまう。金融機関の注目度も高まりつつあるわけだが、特許庁に協力する金融庁の存在は大きい。金融庁が協力する背景には、金融検査マニュアルを中心としたチェック行政から、金融機関個々の金融仲介機能の発揮を重視する行政へと軸足を移す、方針変更の流れがある。
3月に都内で開催された「知財金融フォーラム」(特許庁・金融庁主催)は、参加者252人のうち134人が金融機関の職員で占められた。金融庁の日下智晴・地域金融機関等モニタリング室長は、知財金融の重要性に関して、知財を含む知的資産経営に触れながら「(企業)財務はどの金融機関が分析してもほぼ同じ結果になるが、知的資産分析はばらつきがあって、ここが(金融機関)差別化の源泉になる。どうやるかで、その金融機関の価値が出る。知的資産経営分析の中でも特に知財は最低限やっておかねばならないレベルだ」と説明した。
金融仲介機能を発揮するには、取引先企業の事業性を把握し、助言できる関係の構築が必要だが、それには企業の持つ、さまざまな知的資産が経営にどう生かされているかを分析できなければならないわけだ。
日下室長の指摘する知的資産経営は、実は10年ほど前から経済産業省で研究され、戦略や競争優位の源泉としての知的資産の認識や金融機関などのステークホルダー(利害関係者)とのコミュニケーション・ツールとして知的資産経営報告書の作成が提唱された。「知的資産経営評価融資の秘訣(ひけつ)」という金融機関向け研究報告書も作成されたが、当時は金融機関に余力がなく関心は高まらなかった。(知財情報&戦略システム 中岡浩)