ビザ更新の際には、日本語学校を通して入国管理当局に必要書類を提出する。その中には、銀行の預金通帳のコピーも含まれる。留学生が「週28時間以内」を超える就労をしていないかどうか、入管当局がチェックするのだ。
他の“偽装留学生”と同様、タン君も2つの銀行に口座をつくり、それぞれのアルバイト先から別の口座に給与の振り込みを受けている。このやり方で、先輩留学生たちは難なく更新をくぐり抜けていた。しかし最近は、入管当局の目も厳しくなりつつある。
“偽装留学生”を受け入れる専門学校や大学はいくらでもある
ベトナムで背負った借金は、まだ100万円以上も残っている。法律違反が見つかり強制帰国となれば、タン君の一家は破産してしまう。
ビザが更新できれば、日本語学校を卒業する来年春までには借金は返済できるかもしれない。とはいえ、「出稼ぎ」の目的は全く果たせていない。日本にとどまって働き続けるには、専門学校や大学に進学する必要が生じる。入学金と学費さえ払えば、日本語能力など問わず“偽装留学生”でも受け入れる専門学校や大学はいくらでもある。だが、進学には100万円以上を貯めなければならない。そうなると借金の返済は遅れる。タン君の悩みは尽きない。
これまで筆者はベトナム人留学生だけでも100人以上を取材してきたが、タン君は“偽装留学生”としては、かなり日本語がうまい。来日1年で、何とか日常会話は成立するレベルにもなった。接客が必要な飲食チェーン店で働けるのも、ある程度の日本語ができるおかげだ。言葉に不自由する“偽装留学生”であれば、コンビニやスーパーで売られる弁当などの製造工場やホテルやビルの掃除といった、同じ夜勤でも語学力の要らない職場で働くケースがほとんどだ。もちろん、仕事をかけ持ちし、法律に違反してのことである。