顧客の8割以上が中小・ベンチャー企業と、中小向け知財支援の第一人者として知られる吉田国際特許事務所(東京都港区)所長の吉田芳春弁理士。古希を迎えた現在もなお、相談、講演と全国を飛び回っている。中小企業の知財支援のあり方などについて聞いた。
--なぜ、中小企業支援に力を入れるのか
「かつて義父が勤めた中小企業が特許係争に負けて潰れたのを見て、中小企業のための弁理士となる決意をした。知財を活用して、企業がどうしたら成長するか、もうかるかを考えることは楽しい、やめられない仕事だ」
--最近の中小企業の知財相談の傾向は
「非常にニッチな分野を攻めるための技術開発支援が多い。知財を境とした中小企業の選別が進みつつあることを感じる。IoT(モノのインターネット)化に伴う共同開発を契機に、技術ノウハウや個人の技術資産の棚下しをして、どこまで開示するか、契約に入れるか、などに関する相談も増えている」
--弁理士にとって中小企業はどういう顧客か
「例えば、特許出願では何が発明になるかから一緒に考える必要がある。特許明細書作成以外で多くの労力がかかるが、その手間をすべて請求できるわけではない」
--難しい顧客層であると
「そういう意味では(経営基盤の脆弱(ぜいじゃく)な)若手弁理士にはあまり勧められないが、少しでも顧客の収益が上がれば次につながる。中小企業数は大手の99倍あり、優れた企業を選ぶ方法もある。上場まで行く場合もある」
--特許庁などの公的知財支援策は増えているが、10年前と比較して中小企業の知財レベルは向上したか
「知財に覚醒した企業は増えた。超優良企業とまでは言わないが、多くは規模を拡大し、収益向上を果たしている。半面、中小企業全体ではあまり変わらない。本当の必要性を感じない限り、知財に向き合うことはない」
--支援方法をもっと考えるべきでは
「いや、中小企業の知財を学ぶ自覚こそ必要だろう。本来は自助努力が先で、公的支援では本当に困っている先を対象とする方がよい。(相談の際に)企業として自社にどういう技術、ノウハウ、知的資産があるかさえ書けないのは、人が履歴書を書けないのと同じことだ」(知財情報&戦略システム 中岡浩)