■中小の意識、まずローギアに
プロ用工具を企画・製造するエンジニア(大阪市東成区)は4月に創業70年を迎える。経営者として自ら構築した経営理論の中に知財を折り込んで実践するだけでなく、知的財産教育協会の中小企業センター長として知財の普及にも取り組む高崎充弘社長に聞いた。
--売れる独自商品を作るための経営理論とは
「8年前に構築したMPDP理論だ。マーケティング、パテント(特許をはじめとする知財の意味)、デザイン、プロモーションの4要素がそろわないとヒット商品は創れないという仮説だが、正しさは検証されつつある。4要素の状況を大手と比べると、中小企業はパテントだけが劣勢で理論実践のボトルネックになっている」
--なぜ知財だけがそうなるのか
「基本的知識がないことが最大の原因。多くの中小企業の知財意識は、車で言えばローギアにさえ入っていない。社内に知財部はなく弁理士もいない。特許事務所に相談しても内容が理解できず、背を向けるか、丸投げしてしまう。基本的知識がつけば、専門家との意思疎通は改善し、セカンドにもサードにもギアは入るはずだ」
--基本的知識を備える方策が必要となる
「私自身は悩む中で知財検定に出合い、知財を俯瞰(ふかん)的に理解できた。社内で推奨し、社員約50人のうち半数近くが合格した。知財専任者はいないが、知財マインドが出てきた。MPDPでは第一に顧客ニーズだが、次は知財だ。当社では開発会議で誰かがアイデアを出したら、その場で知財権の状況を確認する。MPDPで知財が欠けることは、心筋梗塞のリスクを高めるようなもの。権利侵害で警告を受け、事業が突然死するからだ」
--ローギアのレベルで知財戦略はあるのか
「例えば、大企業も最初はいい技術があり、認められてブランドが生まれ、その後に企業ブランドが形成された。キラリと光る技術があるなら、それにブランド名をつけて、商標をとってブランド化して行く手がある。(取得まで数十万円必要な)特許と違い数万円ですむ」
--知財の普及はまだこれからだ
「ある特許庁長官へ進言したことがあるが、例えばタレントのようなインフルエンサー(影響力を持つ人物)を担ぎだして知財を盛り上げるのも一つの手だろう」(知財情報&戦略システム 中岡浩)
◇
【プロフィル】高崎充弘
たかさき・みつひろ 東大卒。1977年造船会社入社、87年双葉工具(現・エンジニア)入社、2004年から現職。13年11月知的財産教育協会に新設された中小企業センター長に就任。63歳。兵庫県出身。