さらには、人間の理解が一層進むだろう。脳の解剖学的なデータや神経細胞の結合を詳細に調べて、それを電子計算機で模倣すればその動作が手に取るようにわかるはずだ。その過程で人間を特徴づける脳の特殊性と普遍性が明らかになるだろう。
今のところ人間の専売特許である「創造性の発揮」の謎が解明されるかもしれない。ただし、行列演算主体のスパコンによる、神経細胞をたくさん集めただけのシステムが創造性をバリバリ発揮するとは、実は私も思っていない。それでも、それをやってみることには、重大な意味がある。実は予想が間違っていて、創造性が生まれたら、それでよし。もし、うまくいかなくても何が足らないのかがおぼろげながら見えてくる。それを克服する方法を模索することが次の研究段階となる。科学研究はこのように曲折しながら進んでゆくものだ。そのような研究の中から、「人間性とは何か」という根本的課題に対する答えが得られるかもしれない。
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【プロフィル】戎崎俊一
えびすざき・としかず 独立行政法人理化学研究所戎崎計算宇宙物理研究室主任研究員。東大院天文学専門課程修了、理学博士。東大教養学部助教授などを経て、1995年より現職。専門は天体物理学、計算科学。