東京電力福島第1原発事故後、約2年間止まっている京都大と近畿大の研究用原子炉が原子力規制委員会の審査に合格した。夏以降運転を再開するが、国内の研究炉は合格したものも含め3基のみで、運転開始からすでに40年以上が経過。学生数も低迷しており、関係者は原子力の教育・研究の将来を心配している。
「研究炉がある大学に入学して、やっとという気持ち」。近大博士前期課程1年の堤田正一さん(22)は待ちに待った運転再開を喜んだ。
文部科学省によると、原子力分野の学生数は1994年度の約2300人をピークに減り続け、最近は800人程度で推移。学科や専攻名に「原子力」などが付く大学はこの30年で半減した。
大学の研究炉は現在、近大の1基(大阪府)と、京大の2基(同)だけ。このため両大学は他大学からも学生を受け入れ、実習を行ってきた。原子炉を実際に運転して臨界状態にしたり、出力を変化させたりしながら「原子炉の基本をすべて学ぶ」(三沢毅京大教授)。
出力は、近大炉が1ワットなど極めて小さく、「学生が安全に実習でき、教育効果も非常に高い」(近大原子力研究所の伊藤哲夫所長)という。
3基は福島事故後、2014年5月までに停止。近大は実習を見学にとどめたり、京大は卒業研究の実験をコンピューター計算で代用してしのいできた。
研究の面でも影響が出ている。京大で、福島第1原発の溶融燃料を取り出す技術開発が遅れ気味。政府・東電は21年の取り出し開始を目指しており、三沢教授は「すぐにでも研究を始めたい」と焦りを隠さない。
3基は老朽化が進んでいる。「いつ不具合が出てもおかしくない」(近大の伊藤所長)が、新たな炉の建設議論はない。
研究者出身の田中俊一原子力規制委員長は18日の記者会見で「(日本がこの先)どこまで原子力を続けられるか、極めて心配だ」と、原子力教育の先細りを憂慮した。