凄惨(せいさん)な原発事故を経験した日本が、4年5カ月の空白期間を経て原発へと回帰した。事故を教訓とするなら、「想定外」は二度とあってはならない。国や事業者にとって必要なのは、事故が起こることを前提に、あらゆる事態を想定して備えを万全にしリスクを限りなくゼロにすることだ。
川内(せんだい)原発では、周辺火山の噴火によるリスクについて反原発派が執拗(しつよう)に主張してきた。しかし、川内原発に影響があるようなカルデラ大噴火が起こった場合、九州の南半分が死滅する。そのような事態に対する備えはできているだろうか。周囲が焼け野原になり、原発だけが無事に生き残るという想像は空恐ろしい。
それは東日本大震災からの教訓でもある。事故当時の東京電力福島第1原発の吉田昌(まさ)郎(お)所長(故人)が政府の聞き取りに語った「吉田調書」によれば、吉田氏は「本当は原発の安全性だけでない。東日本大震災で2万人近くが死んだ。これは誰が殺したんですか。あの人たちが死なないような対策をなぜそのときに打たなかったんだ」と力説している。
原発稼働の責任を回避しようというわけではない。原発へのリスクは、すべてその他の災害に直結するものだ。地震、津波、竜巻など自然災害に限らず、原発の新規制基準は航空機の意図的落下などテロへの対策も求めた。「想定外」を徹底的に突き詰めた上で、次に考えるべきは何か。