それはともかく事の本質は、「尖閣の図形」に重ねて「尖閣」の文字を書き、権利化されたとする商標は「尖閣」の文字を除いた「尖閣の図形」だけの権利範囲の商標権でしかない。
さらに、より具体的に言えば「尖閣」の文字商標は、だれもが自由に使うことができる。商標権侵害にならない。多くの人が勘違いしている。
そうではあるが、地名が取れれば極めて使い勝手がいい場合が多い。例えば「東京」。ハイセンスな雰囲気にできる。そこで商標法は、商品に付随させて使い込んだ結果、有名(「周知」や、それ以上の「著名」)になれば、商標権を与える制度「使用による特別顕著性の獲得」をつくった。つまり、地域団体商標や著名商標の保護である。ビジネスでは、このように権利主張ができない部分(地名部分)が存在することを納得の上、使用し続けて有名にする戦略が用いられている。地名だけを単に使っていたのでは、大きな訴求力は望めないため、この方法は有効だ。
この場合、権利の穴の存在は一部の人が知るのみで、ユーザーは全体が権利だと勘違いし、その商標をあがめているうちに顕著性を与えてしまう。
余談だが勇敢な誰かが、島名「魚釣島」と図形の一体商標をいわくありげな指定商品に取り、著名商標にすることも考えられないことではない。
◇
【プロフィル】西郷義美
さいごう・よしみ 大同大工卒。1969年オマーク・ジャパン入社。75年祐川国際特許事務所に勤務。76年西郷国際特許事務所を設立。2008年4月から日本弁理士会副会長を1年間務めた。弁理士と特定侵害訴訟代理人の資格を持つ。69歳。