サッポロは発酵技術の詳細を明らかにしてはいない。だが、広島地方で発見された複数種類の微生物(菌)を使っているようだ。嫌気性、好気性、酸素があってもなくとも平気な微生物と、何種類も混合させて、あたかもサッカーチームを組織して水素を生産する形だ。この水素生産の“代表チーム”に選ばれる菌の条件は「幅広く何でも食べられる生命力、水素を生む発酵力の高さ、さまざまな雑菌に打ち勝てる強さなど」(同)。相手がサトウキビ以外の、例えば食品残渣の時には、出場メンバーを替えて臨む。
サッポロの尾賀真城社長は「すぐに実用化はできないが、夢のある技術。脱炭素社会に向けやり抜いていきたい」と話す。1キロリットルのバイオリアクターを使い1000日以上の連続運転試験を実施中で、日産数千リットルの水素を安定生産できるようになった。この結果、採算性評価がようやく始まった段階だ。
FCVやエネファームなど、どうしても最終製品が注目される。が、再生可能エネルギーとしての水素そのものの生成は、地球温暖化防止にもつながる重要な環境技術である。特に、セルロース系バイオマス(食料や肥料と競合しない草や木)をサッポロが使用している意義は大きい。(経済ジャーナリスト 永井隆)