障害者水増し「恣意的」、国の28機関3700人不適切 検証委報告、政府は法改正検討
中央の行政機関が雇用する障害者数を水増ししていた問題で、弁護士らによる国の第三者検証委員会(委員長・松井巌(がん)元福岡高検検事長)は22日、調査報告書を公表した。昨年6月時点の雇用状況について、33行政機関のうち28機関で3700人が不適切に計上されていたと認定。退職者や視力の弱い人を多数算入したとし、「(障害者の範囲や確認方法の)恣意(しい)的解釈」「ルール理解の欠如」「ずさんな対応」が原因と指摘した。
政府は、行政機関へのチェック体制を構築するため、障害者雇用促進法を改正する方向で検討に入った。再発防止策の柱に位置付けており、早ければ来年の通常国会に提出する。
国のガイドラインでは、障害者と判断するために、障害者手帳や医師の診断書などが必要だが、それらの所持が確認できていない人が9割を超える3426人いた。対象外の職種を入れていたケースがあったほか、退職者も91人含まれ、うち3人が死亡していた。
検証委は、最も多い1103人を水増ししていた国税庁で、「鬱(うつ)状態」や「不安障害」の精神疾患を「内部機能障害」として身体障害者に不正計上していたと指摘。629人と2番目に多かった国土交通省では、退職の有無を確認せずに障害者リストを引き継ぎ、退職した74人を計上していた。約10年前にやめた人や死者も含まれていたという。
焦点の故意性については、全省庁が「意図的に不適切な対応をした例は把握していない」と回答したが、検証委は「法定雇用率を充足するため、不適切計上が行われてきたことがうかがえる」と問題視した。
不正の背景としては、各省庁が障害者の範囲や確認方法について「ルールに沿わない恣意的な解釈」をしていたことや「独自の実務慣行が引き継がれていた」と強調した。
所管する厚生労働省に対しては「実態把握についてほとんど視野に入っていなかった」と批判。「身体障害者は『原則として』手帳の等級が1~6級に該当する者」との不明瞭な通知を平成16年から出し、必ずしも手帳で確認しなくてもよいとの誤解を各機関に生んだことも指摘している。
◇
【用語解説】障害者雇用制度
障害者雇用促進法(昭和35年施行、後に改正)は働く人のうち、一定割合以上を障害者とすることを義務付けており、「法定雇用率」と呼ばれる。今年4月から0.2ポイント引き上げられ、国や地方自治体は2.5%、民間企業は2.2%になった。毎年6月時点の達成状況を厚生労働省に報告する義務がある。雇用率を下回った場合、一定規模以上の民間企業は不足1人につき月額4万円または5万円を徴収される「納付金」の制度があるが、国や自治体にはない。
関連記事