「分かりやすい裁判」目指す IHI損害賠償訴訟、最高裁が異例の当事者主張確認

 

 有価証券報告書などの虚偽記載で株価が下落したとして、個人株主らが造船重機大手IHI(東京)に損害賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁第1小法廷(池上(いけがみ)政幸裁判長)が、先月開かれた弁論の前に、争点に対する意見を当事者に確認する「求釈明(きゅうしゃくめい)」をしていたことが9日、分かった。最高裁が事前に説明を求めるのは異例。弁論では裁判長が双方の主張内容を確認した。何を主張したいのかをあらかじめ整理することで、当事者や傍聴人に「分かりやすい裁判」を目指した形だ。

 最高裁は書面審査が中心。弁論は当日に当事者双方が主張を読み上げて結審するのが通常で、裁判官からの質問はほとんどない。

 IHIは平成19年3月期の有価証券報告書などに虚偽記載があったとして、20年に金融庁から課徴金約16億円の行政処分を受けた。

 訴訟でIHIは「値下がり分の一部は虚偽記載以外の理由によるもの」と主張。金融商品取引法は「他事情」で値下がった分と証明できた場合に、その一部または全額の賠償を免除しており、上告審は「他事情で値下がったのはいくら分か」を裁判所が独自に算定できるかが争点となった。

 株主側代理人によると、7月5日付で裁判長名の期日外釈明書が届いた。争点に関わる関連規定の解釈について追加主張があれば書面を出すよう求めるもので、その後も「特に強調したい点」の書面提出を求められたという。9月3日の弁論では当事者が主張を述べた後、裁判長が「このような理解でよろしいでしょうか?」と、改めて双方の主張を整理した。

 判決は今月11日。株主側代理人の葛田(かつた)勲弁護士は「当事者が事前に提出した書類だけで弁論を行う一方通行の審理ではなく、最高裁で争点への議論が深まり、私たちの主張を理解した上で判決を出してもらえるのは喜ばしい」と話す。

 裁判所関係者は「最高裁の弁論を活性化させたいという問題意識は以前からあった」と明かす。ベテラン裁判官は「当事者と意思疎通を図ることで当事者にも傍聴人にも分かりやすい裁判になる」としている。