【論風】「安倍一強」の二面性 国民の評価は外交か内政か

 
国会議事堂(斎藤良雄撮影)

 「安倍一強」の名の下に行われている安倍晋三首相の政治姿勢は、外交と内政でその評価は大きく分かれている。最近の先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)や米朝首脳会談での首相の果たした役割は、各種の世論調査で、ある程度評価され、一時低迷していた内閣支持率も上昇している。(一橋大学名誉教授・石弘光)

 毎月何回も外遊に出掛けるが、国際社会でそれなりに日本のプレゼンスを高める働きをしてくれている。支持者は、この外交面では余人をもって代え難い働きを首相はしているとして、支持率上昇につなげようとしている。

 確実でない3選見通し

 この外交での明の側面と比較して、暗の側面が内政と言えよう。このように「安倍一強」には、明暗分かれる二面性があると言えよう。折しも、9月の自民党総裁選が次第に話題になり出した。総裁選に他の候補者も、それなりに政策論を打ち出し、首相の対抗馬として名乗りを上げている。一時期、安倍首相の3選確実と思われていたが、どうもその見通しが確実でない状況も根強く存在している。

 その最大の問題が、首相の抱える内政の諸課題である。「安倍一強」のおごりとしか言えないような光景も見られる。例えば、各種の世論調査で70%前後が「今国会で成立させる必要がない」とする、いわゆるカジノ法案を、国会開催を32日間も延期させ、成立させた。国民の目から見ると、明らかに暴挙としか言いようがない。

 それよりも、もっと大きな内政問題は、いま国民の間にある政治家、官僚に対するいらいらした不信感である。

 これは言うまでもなく、過去1年半の間、繰り広げられてきた森友学園と加計学園の一連の不祥事である。公文書改竄(かいざん)が明らかとなったり、破棄されたとされる文書が、その後次々と公表されたりしている。さらに安倍首相と加計学園の加計理事長の面談にあたっても、愛媛県まで巻き込み不可解な説明が何度も行われ、国民の不信を逆なでしている。

 倫理観にも影響

 このような状況において、当事者たる官邸、与党、関連官庁は一件落着と幕引きを図りたがっている。ところがまだ、何も解決されていないと感じる国民との間のギャップは大きい。

 騒ぎの元凶となっているこの森友・加計問題は、まさに首相個人と夫人が引き起こした個人的な問題である。このもみ消しのために官僚がどれだけ迷惑を被ったか、有為な人材がどれだけ犠牲になったか計り知れない。

 首相を守るためとも思われる官僚の一連の行動は、形になる証拠がないために立証されていないが、首相の「忖度(そんたく)」を受けてやったと多くの国民はみている。

 首相は国会でこれらの一連の問題に関し、「丁寧な説明をする」とか「膿(うみ)を出し切る」などと答弁しているが、やっていることは、この反対のことだらけと言えよう。

 延長された国会で、真相解明がどれだけできるか分からないが、やはり国民がある程度、納得のいくまで、森友・加計問題を議論してほしいと思う。

 6月の主要新聞各紙の世論調査をみると、確かに内閣支持率は回復基調にあるが、それは最近の外交面での成果が評価されて生じた現象である。森友・加計問題を中心として内政に関して、従来と同じような批判が続いている。

 例えば、共同通信によると、財務省が決裁文書改竄の関係者を処分したことで、森友問題は決着したとの回答はわずか15.8%、逆に決着していないとの回答は78.5%に上がった。

 確かに国際的には重要な課題があるがと言って、これを無視し安倍首相の続投を認めるのは、これからのわが国の倫理観の喪失につながりかねない危険もはらんでいると言えよう。この「安倍一強」の二面性のどちらに国民が重きを置くのか。日本の将来に大きな問題を投げかけている。

【プロフィル】石弘光

 いし・ひろみつ 1961年一橋大経卒。その後大学院を経て、講師、助教授、教授、学長。専攻は財政学。経済学博士。現在、一橋大学ならびに中国人民大学名誉教授。放送大学学長、政府税制調査会会長などを歴任。80歳。東京都出身。