【水と共生(とも)に】「世界水フォーラム」SDGs達成へ行動促す
3年に一度、世界中の水関係者が一堂に会し、地球規模の水問題解決に向けて議論する「世界水フォーラム」。第8回の同フォーラムが3月23日までの6日間、ブラジルの首都ブラジリアで開催された。今回は、国家元首・閣僚級、政府機関、国際機関、企業、NGO/NPOなど172カ国から計約12万人が参加した。最終日には、「水問題にかかわる持続可能な開発目標(SDGs)の達成」に向けて世界中の水関係者が協力して行動を起こすことが決議された。
◆国連採択後、初の国際会議
今回の世界水フォーラムは、2015年9月の国連サミットでSDGsが採択された後、初めて開かれる大きな水の国際会議だったため、世界的に注目された。「水を分かち合う」を主要テーマに、水の専門家1万600人が一堂に会し、17のハイレベル会合のほか、(1)テーマプロセス(2)政治プロセス(3)地域プロセス(4)市民フォーラム(5)サスティナビリティ・フォーカス・グループ-の5つのグループに分かれて計300以上のセッション(分科会)が開かれた。
「政治プロセス」の閣僚級会議には、秋本真利・国土交通政務官が出席し、気候変動に伴う洪水の頻発、水需要の逼迫(ひっぱく)、地下水の過剰取水による地盤沈下問題解決など世界が抱える水の課題について、日本が有する技術・法制度や経験・ノウハウを紹介した。また、アジア・太平洋水フォーラム(APWF)とミャンマー政府が昨年12月に共催した第3回「アジア・太平洋水サミット」の成果文書「ヤンゴン宣言」に盛り込まれた水災害対策への投資倍増、防災への事前投資、健全な水循環への取り組みなどにも触れ、「アジア太平洋地域の各国リーダーの決意であるヤンゴン宣言を世界の水問題のステージに提起し、多くのステークホルダーに行動を呼び掛けたい」と述べ、日本の貢献策を強調した。
「地域プロセス」では、APWF(事務局・日本水フォーラム)がアジア太平洋地域のコーディネーターを務めた。世界水フォーラムの第5回(トルコ)、第6回(フランス)、第7回(韓国)に続き今回で4回目である。
APWFのメンバー機関との協働で「アジア太平洋地域プロセス報告書」を公表し、8つのセッションを共催した。同地域の取りまとめセッションでは、「ヤンゴン宣言」を具体的に実行していくための議論を行い、リーダーシップの重要性とともに、各種水課題に取り組む現場の能力向上やイノベーション創出を促す、政策・制度・教育面での取り組みの重要性を提言した。
◆皇太子さまの基調講演
皇太子さまは同月19日午前の開会式にご臨席され、お言葉を述べられたほか、同日午後の「水と災害」ハイレベルパネルで「繁栄・平和・幸福のための水」と題して英語で基調講演を行われた。
基調講演では、武田信玄公の三分一湧水(3つの村に農業用水を三等分するために武田信玄が造ったとされる分水路)やブラジルの水循環などに触れながら、経済・社会の発展のために必要な水を分かち合うことの大切さなどに言及された。また、人類が「繁栄、平和、幸福」のために水に働き掛けてきたことに触れ、水の課題解決に向けて今後さらなる行動が取られることに期待を寄せられた。
筆者は、世界水フォーラムの第3回(2003年、日本)、第5回(09年、トルコ)で、皇太子さまの基調講演を会場で直接拝聴し、第6回(12年、フランス)、第7回(15年、韓国)ではビデオメッセージで拝聴した。基調講演で使われたほとんどの写真は、自ら現地に赴かれ撮影されたものだった。皇太子殿下は、水に関する深い造詣と水にかける情熱を国際社会に発信し続けておられる。
基調講演の最後では「21世紀は水による繁栄・平和、そして幸福の世紀であったと後世の人々に呼ばれるようになることを願っています。引き続き、私も水問題解決に強い関心を持って見守っていきたい」と述べられた。
(皇太子さまのご講演内容の詳細は宮内庁ホームページを参照。http://www.kunaicho.go.jp/page/koen)
◆87のパビリオンが出展
世界水フォーラムでは展示会も開催された。各国・地域、環境団体、企業などから87のパビリオンが出展され、世界最大級の水イベントを盛り上げた。国・地域では、かつての世界水フォーラム開催国であるモロッコ、オランダ、日本、フランス、韓国などのほか、ポルトガル、イスラエル、中国、次回の同フォーラム開催国セネガルなどが出展した。企業では、コカ・コーラが自社のミネラルウオーター「Cristal」のブランド名で出展していたほか、ネスレなどが積極的にPRしていた。
「健全な水循環」に向けた官民一体の取り組みを展示した日本パビリオン(主催・日本政府)には、22の企業・団体が出展した。今年9月に東京で開催される「国際水協会(IWA)東京総会」のPRを含め、日本の水に関する技術・取り組み・文化などを積極的に発信した。同月20日には、皇太子殿下が視察に訪れた。
◆成果と今後の目標
世界水フォーラムには172カ国から12万200人が参加した。計300以上のテーマ別セッションには1万600人の専門家が参加し、水に関する全ての話題が討議された。
成果の一つが「閣僚宣言」である。56カ国の閣僚56人・副大臣14人により、水と衛生の課題に関する11の優先的アクションが採択された。今回の世界水フォーラムで形成されたパートナーシップが、この宣言の確固たる実現に不可欠であるとしている。
「ブラジリア憲章」が発表されたことも成果の一つである。今回の世界水フォーラムの特長として、水資源に関わる紛争に最終的な判断を下す立場の司法関係者が初めて参加したことが挙げられる。57カ国から83人の裁判官や検察官が参加した。「水を分かち合う」という主要テーマが反映されたブラジリア憲章には9カ国が署名した。
また、今回の世界水フォーラムで新設された「サスティナビリティ・フォーカス・グループ」では、議論の成果文書として「サスティナビリティ宣言」が発表された。SDGsの中でも特にゴール6(水と衛生)について、世界水フォーラムが主体的に取り組み、世界の水問題の解決に貢献することが盛り込まれた。次回の世界水フォーラムは21年、アフリカのセネガルで開催される。(取材協力・日本水フォーラム)
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【プロフィル】吉村和就
よしむら・かずなり グローバルウォータ・ジャパン代表、国連環境アドバイザー。1972年荏原インフィルコ入社。荏原製作所本社経営企画部長、国連ニューヨーク本部の環境審議官などを経て、2005年グローバルウォータ・ジャパン設立。現在、国連テクニカルアドバイザー、水の安全保障戦略機構・技術普及委員長、経済産業省「水ビジネス国際展開研究会」委員、自民党「水戦略特命委員会」顧問などを務める。著書に『水ビジネス 110兆円水市場の攻防』(角川書店)、『日本人が知らない巨大市場 水ビジネスに挑む』(技術評論社)、『水に流せない水の話』(角川文庫)など。
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