【高論卓説】福田財務次官の辞任 美人を配属して情報収集 メディアと官庁の関係に“不都合な真実”
「福田ですが、○○さんいますか」
経産省時代、より正確には内閣官房行革事務局(当時)に出向していた際、今、話題の福田氏(前財務次官)から上司宛ての電話をしばしば取り次いだ。当時の上司は財務省からの出向者であった。
福田氏は予算を査定する財務省主計局にいたのだが、「行革事務局に厚労の主計官が何の電話だろう? 仕事の関係はほぼないはずだが?」といぶかしく思って聞き耳を立てていると、何のことはない、大体、マージャンのお誘いの電話であった。
私は当時の上司とは、政策的な意見はしばしば合わなかったが、仕事の進め方や攻める勘所、パーッと飲んで歌っておごるという部下との接し方、その他大変に学ぶところが多く、今も敬愛している。その上司が、先輩の福田氏の仕事ぶりを激賞していたことが印象深い。福田氏はやるときはやる男だと。
優秀な官僚には2つの類型がある。真面目にルールに従って頑張るタイプ(堅実型)と、やるときと遊ぶときとのメリハリを付けるタイプ(突破型)だ。受験生と変わらない。前者は宿題をきっちりやり、後者は「テストさえ良ければいいんだろ」と宿題は往々にしてやらない。近年、突破型が減って絶滅危惧種となり、堅実型が圧倒的に多い。
幸か不幸か、霞が関在職中の約14年間、上司の多くは突破型であった。離職直前に担当したインフラ輸出政策の司令官は、総理秘書官として有名な今井氏であったが、典型的な突破型だ。なお、私は特に仕事や上司に不満があって辞めたわけではない。突破型に仕えるのは大変だが、同時にやりがいがあって面白かったことを付記しておく。
国難の時代、年金や税制などさまざまな制度が制度疲労を起こし、抜本的な解決策を必要としている。本来、必要な官僚は言うまでもなく突破型だ。前例やルールをあがめて「だから無理です」ばかりでは済まない。「遅れず、休まず、仕事せず」では話にならない。
しかし、都合が悪いことに、突破型は型にはまらないため、仕事面のみならず、部下の管理、女性関係その他、人倫的にもおきてを乗り越えてしまうことが多い。「ふざけるな!」と部下を怒鳴り、「朝まで付き合え」と異性を口説く。
さて、話は変わるが、福田氏を敬う財務省上司を観察して経産省と財務省でこうも違うのかと驚いた点が1つある。メディアへの接し方だ。
消費増税時に主税局の広報担当をして、メディア経由で丁寧に政策を国民に説明する重要性を熟知していた彼は、部屋中がバタバタでも、記者などから取材依頼が来ると最優先で丁寧に対応した。大切な友人として扱った。経産省では多忙な際、メディア対応は一番後回しだった。
財務官僚の福田氏は、きっとメディアを大切にし、付き合いを深めて、親しい友人のように思っていたのであろう。推測だが、言った本人は内輪の友人向け会話と認識し、外形的には立派なセクハラになっている、というのが真相ではないか。セクハラに苦しむ女性記者が「こんなことを言われているので取材は勘弁して下さい」と録音を示して抵抗したのに、テレ朝が無視したので逆切れして新潮に流したという説もあるが、真相は分からない。
ただ、メディアが官邸や重要省庁担当に積極的に美人を配属して情報収集に努めていることは私の見聞からは間違いなく、それが、当該女性の意に反していれば立派なパワハラだ。ただ、そうして抜いた貴重な情報がテレビ局などを支えている面も否めない。世の中、不都合な真実に満ちている。
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【プロフィル】朝比奈一郎
あさひな・いちろう 青山社中筆頭代表・CEO。東大法卒。ハーバード大学行政大学院修了。1997年通商産業省(現経済産業省)。プロジェクトK(新しい霞ヶ関を創る若手の会)代表として霞が関改革を提言。経産省退職後、2010年に青山社中を設立し、若手リーダーの育成や国・地域の政策作りに従事。ビジネス・ブレークスルー大学大学院客員教授。45歳。
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