神鋼、三菱マテ… 素材企業不正、現場のムリを常態化させた「ケイレツ」の重圧とは
神戸製鋼所や三菱マテリアルなど日本を代表する素材メーカーで常態化していた品質不正は、品質の高さで名声を築いた「メード・イン・ジャパン」ブランドへの信頼を大きく失墜させた。企業体質やコーポレートガバナンス(企業統治)の不全に酌量の余地はないが、一方で素材企業を不正に誘引した商慣行や品質制度といった構造的な問題点も浮上する。今回発覚した一連の不正を機に、その裏にある構造問題の解決に取り組むことが信頼回復への第一歩となる。
現場のムリを常態化
「競合に競争力で勝るためにも、価格改善をこれだけお願いします」「一生懸命、改善に取り組みます」
トヨタ自動車が部品メーカーと半年に1回行う部品の価格改定交渉の一幕だ。2017年度下半期の下げ幅は1%未満。約3万点の部品からなる車のコスト削減に取引先と一体で取り組み、競争力を磨いてきた。
トヨタのように、日本では完成車を頂点に部品や素材メーカーが多数連なる「ケイレツ」を構築。幅広い裾野企業を囲い込み、長年の取引と信頼関係の下、継続的なコスト削減や品質向上で協力し、日本車が世界を席巻する原動力を築いた。
「ケイレツを支える重圧が一部の現場でムリを常態化させた」と立正大学経済学部の苑志佳教授は語る。
技能者の世代交代や非正規雇用者の増加で歩留まり(良品率)を高める難易度は上がっている。一方、取引先からのコストや品質水準の要求は高まっている。神戸製鋼の川崎博也会長兼社長は「工程能力がマッチしなくなり、供給責任上の重圧に負けたのだと思う」と6日の会見で語った。
慶応大学商学部の菊澤研宗教授は「現場が不正を行うことが合理的という不条理に陥った」と指摘する。素材メーカーは取引先からの要求を拒否して長年培った信頼関係を損ねたり、納期を遅らせて取引先のラインを止めてしまうことはできない。現場がそれを忖度(そんたく)したことで不正が日常化したという見解だ。
現場で問題が顕在化しているのに、経営の目が現場に行き届かず、自浄作用が働かない構図も透けてみえる。菊澤教授は「風通しのいい組織にして現場のムリを伝えやすくすることが必要だ」と続ける。
JIS法見直しへ
「完成品メーカーの過剰品質にも問題がある」。日本能率協会コンサルティングの宗裕二品質革新センター長は警鐘を鳴らす。高品質・低コストを過剰に追求するあまり、素材の現場にひずみが生じたとみる。神戸製鋼は計605社に規格から外れた製品を出荷したが、現時点でほぼ全ての顧客の完成品に安全性の問題はない。裏を返せば、規格にもっと幅を持たせられるのではないか。川崎氏は「顧客の仕様が厳しいのは当然」と過剰品質を否定するが、一方で「適正な品質について議論すべきだ」(宗氏)との声も強まる。
一連の不正は日本の品質制度が抑止力として機能しなかったことも浮き彫りにする。顧客の承認があれば強度や寸法などが規格外でも出荷できる「特別採用(トクサイ)」は、日本工業規格(JIS)にも定められた商習慣だが、不正の隠れみのになった。
ブリヂストンの津谷正明最高経営責任者(CEO)は「曖昧さを続けるのは難しい。時間をかけ、一番いい解決法を探る」と述べるなど、新たな物差しを探る動きも出ている。
経済産業省は今国会での改正を目指し、JIS法を見直す。認定を受けずにJISマークを使用した企業への罰金の上限を、100万円から1億円へ大幅に引き上げ罰則を強化する。ただ、いくら法改正しても企業の取り組みが不十分では意味がない。経産省の幹部は「企業ごとにベストプラクティス(最善の方法)があり、その情報を横断的に共有してほしい」と企業側の自浄作用に期待する。
日本のモノづくりが信頼を回復するには、経営陣や現場が意識を改めて不正を誘引する構造的な歪みを解消し、同時にいかに品質制度で担保するかが欠かせない。一連の問題を、日本の商慣行や制度について改めて考え直す契機にする必要がありそうだ。(万福博之、大柳聡庸)
■素材メーカーで発覚した品質不正
(神戸製鋼所/三菱マテリアル/東レ)
・対象製品
アルミ製品、銅製品、鉄鋼製品など/シール材、銅製品、アルミ製品など/タイヤなどの補強材
・出荷先数
605社/764社/13社
・公表時期
2017年10月8日/11月23日/11月28日
・開始時期
1970年代/1990年代後半/08年
・手段
製品検査データの書き換えなど
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