「洗濯可能、超薄型有機の太陽電池」「細胞のうるおい測定」

Science View
≪図有機太陽電池≫厚さ3μmの超薄型有機太陽電池素子を貼り付けた白いワイシャツ(綿100%)を洗剤に漬けて洗っている様子

 ■洗濯可能な超薄型有機太陽電池

 □理化学研究所創発物性科学研究センター 創発ソフトシステム研究チーム 研究員・福田憲二郎

 生体情報の継続的なモニタリングをするための身に付けるウェアラブルセンサーでは、衣服に貼り付け可能な環境エネルギー電源の開発が重要となる。これは、衣服上へ電源を貼り付けることで十分な面積を確保でき、大きな電力を環境から取り出すことができるからである。このような太陽電池の実現には、高いエネルギー変換効率、機械的柔軟性、耐水性の3つの要素を同時に満たす必要がある。今回、理研を中心とする共同研究チームは、厚さ3μm(1,000分の3mm)という超薄型の有機太陽電池の作製に成功した。これは、厚さ1μmの基板フィルムおよび封止膜を利用しており、曲げたりつぶしたりしても動作する。

 また、衣服に貼り付けることができ、洗濯もできる。エネルギー交換効率は従来の4.2%の2倍近い7.9%を達成、さらに2時間水に浸してもエネルギー交換効率は5%程度しか低下しなかった。開発の決め手となったのは、2012年に理研の研究グループが開発した有機半導体ポリマー「PNTz4T」を用いて、環境安定性に優れた逆型構造の有機太陽電池を超薄型基板上に作製できたことである。さらに、この超薄型有機太陽電池をあらかじめ引張させたゴムでサンドイッチすることで、伸縮性を保ちながら耐水性が大きく向上する封止を実現した。本成果は、ウェアラブルデバイスやe-テキスタイルに向けた長期安定電源として大きく貢献するものと期待できる。

【プロフィル】福田憲二郎

 ふくだ・けんじろう 2011年3月東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻博士課程修了、博士(工学)。山形大学大学院理工学研究科電気電子工学分野助教を経て、15年10月より現職。専門分野は有機エレクトロニクス、フレキシブルエレクトロニクス、プリンテッドエレクトロニクス。

 ●コメント=柔らかな有機材料の特長を生かした新たな電子デバイスを創成していきたい。

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 ■細胞のうるおいを測る

 □理化学研究所 生命システム研究センター 細胞デザインコア合成生物学研究グループ 集積バイオデバイス研究ユニット 研究員・田中信行

 よく洗浄されたガラスは水によく濡れて、表面上で水が広がる。一方で、表面をフッ素加工された雨傘は水をよく弾く。このような物質表面の液体に対するなじみやすさを表す物性を「濡れ性」といい、ガラスは濡れ性が高く、雨傘は濡れ性が低いと表現する。近年、iPS細胞やES細胞など幹細胞の培養細胞を利用した再生医療が注目を集めている。培養細胞の機能評価には通常、細胞内部の遺伝子やタンパク質を得るために細胞を壊すことが一般的であった。今回、理研を中心とした共同研究チームは、細胞の物性が細胞表面にある物質によって異なることを利用して、培養細胞の機能評価に濡れ性を利用しようと考えた。従来の濡れ性評価法では細胞の濡れ性は調べられないため、培養皿底面の培養細胞を覆っている培養液に空気を噴射した際の液体除去領域の大きさによる評価法を考案し、「非接触濡れ性評価システム」を開発した。

 実際に、このシステムでマウス骨格筋芽細胞株の培養細胞を調べたところ、濡れ性の評価が可能であり、かつ物理的な細胞破壊や糖代謝の変化、細胞膜傷害が起こらないことを確認した。今後、本システムで培養細胞表面のタンパク質の変化を捉えることができれば、幹細胞が目的の細胞に分化できたかを、細胞を壊さずに検査することが期待できる。またがん細胞では、悪性度が高くなると細胞表面の糖タンパク質ムチンが増えるため、濡れ性による悪性度の検査につながると期待できる。

【プロフィル】田中信行

 たなか・のぶゆき 2011年大阪大学大学院工学研究科機械工学専攻博士課程修了。博士(工学)。大阪大学大学院基礎工学研究科助教などを経て15年から現職。濡れ性に基づく細胞評価技術の開発に従事。「こだわらないことにこだわる」がモットー。

 ●コメント=科学と工学を両輪に、調和のとれたイノベーションを起こし、広めたい。

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 ■理化学研究所が「科学講演会」を東京(11/3)、金沢(11/23)で開催

 理化学研究所は「第39回科学講演会 理研百年~新たなる百年へ~」を、11月3日(金)に東京で開催する。また、「科学講演会in金沢」も11月23日(木)に開く。いずれも「科学道100冊フェア」の紹介、理研グッズ販売を同時に行い、金沢では理研百年の歴史がわかる「理研展」も開催。参加費は無料で事前申込制。

 東京開催

 ◇日時 11月3日(金)14時~17時(13時開場)

 ◇会場 丸ビルホール(東京都千代田区丸の内2-4-1丸ビル7階)

 ◇詳細 詳しいプログラム、申込方法は以下のURL参照

 http://www.riken.jp/pr/events/events /20171103/

 金沢開催

 ◇日時 11月23日(木)講演会:14時~16時30分(12時開場)

              展示等:12時~17時

 ◇会場 金沢歌劇座2F大集会室、1F会議室9-10(石川県金沢市下本多町6番丁27番地)

 ◇詳細 詳しいプログラム、申込方法は以下のURL参照

 http://www.riken.jp/pr/events/events /20171123/

 ◇問い合わせ 理化学研究所 広報室

 (電)048・467・9954 E-mail event-koho@riken.jp