正林真之弁理士に聞く 若手は危機感を持って
生かせ!知財ビジネス設立から20年で、国内特許事務所のトップ10入りを果たした正林国際特許商標事務所。創業者の正林真之所長は、近年急増した若手弁理士たちが独立開業の際に目標とする人物の一人だ。2018年度に日本弁理士会の副会長に就任する正林氏に、弁理士業界の現状と若手弁理士への思いを聞いた。
--弁理士会活動へ6年ぶりに復帰するのはなぜか
「弁理士業が今後、沈んでいってしまうのではないかと、ものすごく危機感を覚えているからだ。特許出願件数は減少し、弁理士登録数は増加している。特許事務所の規模別受託件数を見ると、大手は上昇傾向、中小は減少傾向で、格差が開いている。弁理士会は今、何をやっているのか。現場に入らないと分からないと考えた」
--若手弁理士の開業も厳しくなっている
「若手は、弁理士業にもっと危機感を持ってほしい。弁理士の仕事は『イノベーション』と『オペレーション』の2種類がある。技術者から発明を引き出し、特許出願へ導く活動はイノベーションの仕事だが、多くの手間とリスクが伴う。一方、企業の知財部門から指示を受けて特許出願し、権利化や権利維持に伴う事務作業を営々と遂行することはオペレーションの仕事だ。中小の多くは前者を、大手の多くは後者を受ける傾向にある」
--若手はもっと現実を見ろということか
「特許事務所をうまく経営していくには、イノベーションとオペレーションの両方の仕事をこなす能力が要る。二刀流の経営をすることだ。もちろん、企業の中に入って、技術者の難解な話を聞いて、発明を引きだすという弁理士本来の役目を軽視してはいけない」
--弁理士会でも、弁理士の在り方や特許事務所の経営について、より真剣な議論が必要になる
「人間の生産活動は近世まで非常に少しずつしか増えなかった。その当時は新しいことをする者は異端者扱いされた。それが特許制度の登場で異端者は『イノベーター』といわれるようになり、人間の生産活動を激増させた。イノベーターを支えるのは弁理士の仕事だが、弁理士の世界にもイノベーターは現れる。全世界を含めた競争に打ち勝っていくため、日本の弁理士は自らの現状と将来を真剣に考え、対策を打っていく必要があると思っている」(知財情報&戦略システム 中岡浩)
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【プロフィル】正林真之
しょうばやし・まさゆき 1989年東京理科大理卒。94年弁理士登録。特許事務所を経て、98年正林国際特許事務所(現・正林国際特許商標事務所)を設立。2007~12年度日本弁理士会副会長。51歳。千葉県出身。
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