なぜ「目隠しレストラン」が人気なのか 感覚研ぎ澄ます「食」に連日満席

 
目隠しして肉を食べる「旬熟成 GINZA GRILL」が人気?

 目隠しをして“本当の肉の味”を楽しむ焼き肉店「旬熟成 GINZA GRILL」が人気を集めている。(長浜淳之介)

 ただ目隠しをするだけではない。牛肉が香ばしく焼ける音をヘッドフォンで聞きながら、聴覚を刺激するサービス「リスニングイーツ」を提供している。

 同店は2017年4月にオープン。東京・銀座エリア最大級の商業施設「GINZA SIX(ギンザシックス)」のレストラン街「ザ・グランギンザ」にある。ザ・グランギンザ自体が「銀座から第6感をも刺激する、トレンドや文化・体験価値の発信基地」をテーマにしているが、まさしくそれに沿った提案だ。

 席数は54席で、年間の売り上げ目標は2億5000万円。反響は大きくランチ、ディナータイムともに連日満席で、順調に予約が入っている。

 雑誌やSNSの写真写り、映像映えの良い商品が売れる傾向にあるのは否めないが、リスニングイーツはそうした視覚重視の常識に対する、新たな挑戦である。

「熟成肉」ビジネスで生き残るために

 同店を経営するのは、都内に5店の飲食店を経営する外食ベンチャーのフードイズム。09年に1号店、ギョーザとワインの「KITCHEN TACHIKICHI」を渋谷にオープン。ワインでギョーザを味わう斬新なコンセプトで女性の集客に成功し、わずか13坪で年商500万円以上を稼ぐ繁盛店となった。

 そのフードイズムが次に着目したのは熟成肉。12年に、六本木で焼き肉店「旬熟成」をオープンし、これも予約が取りにくいほどの人気店になった。

 日本ではこれまで、サシが入った霜降りの牛肉が理想で、神戸牛、松阪牛といった銘柄が高級とされてきた。しかし、欧米では赤身の熟成肉が主流。よく「肉は腐りかけがうまい」と言われるが、硬い赤身の牛肉を、熟成させて軟らかくして食べる技術が欧米で発達した。

 近年は日本でも、霜降りとはまた違う赤身の熟成肉の良さが理解され、浸透してきている。脂肪分が少ないのでヘルシー感があり、赤身肉ダイエットまでもが提唱された。ステーキ専門店の「いきなり!ステーキ」はもちろん、最近では牛丼の「吉野家」や「松屋」も、この熟成の技術を取り入れて味の改良をはかっている。

 また、都内の熟成肉の店は過当競争になりつつある。そこで同社は、目隠しをして肉を焼く音を聞きながら料理を楽しむ体験を加えることで、明確に差別化していく戦略に出たのだ。

想像力を膨らませ、おいしさを倍増させる

 リスニングイーツは、ミニ牛ハンバーガーと前菜3品が出た後に、10~20分の時間で実施する(単品の注文はできない)。スタッフが客に目隠しをした後、ヘッドセットを着用させて熟成肉を口に運ぶ作業を手伝う。

 ヘッドフォンから流れる音は、厨房で熟成肉を実際に焼いている音を、マイクで拾って録音したものだ。想像力を膨らませ、おいしさを倍増させるためには、どんな音楽よりも調理している音がベストと考えた。

 顧客層は、銀座に買い物に来る40代が中心だ。接待需要も多い。また、歓送迎会、打ち上げといった用途で団体客も目立つ。顧客単価はランチで6000円、ディナーで2万円といったところだ。

 ギンザシックスの地下2階食品フロアには、姉妹店「MEET&GREEN 旬熟成」も出店している。これは熟成肉にオーガニック野菜を合わせたサンドイッチの店で、サラダ、熟成肉の缶詰、酵素ドレッシングも販売している。

 いま、東京や大阪のような大都市にある商業施設では、大規模なチェーン店よりも集客力が高い個店を好んで入居させる傾向が強まっている。フードイズムにも多くの商業施設からオファーが来たが、同社の跡部美樹雄社長は「銀座ならば訪日観光客も多いので、海外に出ていく拠点にもなる」と考えて決断したという。

目隠しレストランの良さとは?

 目隠しをして食事をするレストランといえば、東京・浅草の緑泉寺で月に一度開かれる「暗闇ごはん」がある。

 明かりを落とした暗闇の部屋でアイマスクを着用し、完全に視覚を奪われた非日常的な状況を作り出す。料理は1品ずつ運ばれ、残された嗅覚、味覚、聴覚、触覚をフル回転して食べるので、食べ物の味が普段より濃厚に感じられると好評だ。

 また、東京都国分寺にある「カフェスロー」で土曜日(毎週ではない)に開催される「暗闇カフェ」は、店内の電灯を落として、キャンドルの明かりで営業している。

 こうした「暗闇系飲食店」の参加者からは「視覚情報は非常に重要だが、ストレスにもなっていることに気付いた」という感想が寄せられている。

 何かとストレスの多い現代社会。雑念を排除し、食べ物の味に集中できる目隠しレストランの需要は、これからさらに高まっていくかもしれない。

 長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ) 兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。