■卵母細胞はその大きさゆえに間違いやすい
□理化学研究所 多細胞システム形成研究センター 染色体分配研究チーム チームリーダー・北島智也
細胞分裂の際、ヒトでは46本の染色体が娘細胞に正しく分配されることが重要である。細胞は通常、この染色体分配を正確に行うための機構を備えているので、ほとんど間違いは起こらない。ところが、卵子のもととなる卵母細胞の減数分裂は例外で、10~30%という高頻度で間違いが起こる。間違いが起こると卵子の染色体数が異常となり、正常に胚発生できず、着床前に失われるか流産となる。出産まで至った場合には、ダウン症などの先天性疾患を引き起こす。しかし、卵母細胞の染色体分配に間違いが起こりやすい理由は、よく分かっていなかった。
理研の研究チームは、卵母細胞のサイズが他の種類の細胞に比べて巨大だという特徴が、染色体分配の間違えやすさと関係していると考えた。そこでマウスの卵母細胞を顕微操作し、細胞質の体積が通常の1/2の卵母細胞と2倍の卵母細胞を作り出し、それぞれの染色体分配について調べた。その結果、細胞質が大きいほど、(1)紡錘体極の機能性が低くなり染色体分配の必要条件である染色体の赤道面への整列に失敗しやすいこと、(2)紡錘体チェックポイントの厳密性が低下し染色体分配の間違いを許してしまうことが分かった。すなわち“卵母細胞はその大きさゆえに染色体分配を間違えやすい”細胞内状態を作り出しているといえる。
今後、(1)や(2)の分子機構を解明することで、染色体分配の正確性を向上させる方法を確立できる可能性がある。
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【プロフィル】北島智也
きたじま・ともや 2006年東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻博士号(理学)取得。東京大学分子細胞生物学研究所助手、European Molecular Biology Laboratory(EMBL)Heidelberg研究員を経て、2012年から現職。
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■コメント=完璧な人間がいないように、完璧な細胞もありえ ません。細胞の中に人生の縮図を見てみたい。
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■免疫機能の個人差に関わる遺伝子カタログを作成
□理化学研究所 統合生命医科学研究センター 統計解析研究チーム 特別研究員・石垣和慶
ヒトの免疫機能には個人差があり、個人差の積み重ねが免疫疾患発症などの原因となることが近年明らかになってきた。特に、免疫細胞内における遺伝子発現量の個人差が免疫疾患の発症に大きく関わると考えられている。
今回、理研を中心とした共同研究チームは、105人の健常人から5種類の主要な免疫細胞(CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞、B細胞、NK細胞、単球)を回収し、遺伝子発現量の個人差に関与するゲノム領域(eQTL)を次世代シーケンサーにより網羅的に解析することで、免疫機能の個人差に関わる遺伝子カタログ(eQTLカタログ)を作成した。複数の免疫細胞を対象とした研究はアジア初の試みである。
またeQTLカタログを応用し、免疫疾患の遺伝的メカニズムの全体像を評価する新しい手法を開発した。例えば、関節リウマチ患者と健常人の遺伝子情報を用いて、CD4陽性T細胞において176個の遺伝子がTNFパスウェイに与える影響を予測し、一つの情報に集約した。これを解析した結果、TNFパスウェイの活性化は関節リウマチの病態で重要な役割を持つことが確認できた。
本研究で得られたeQTLカタログや解析手法は、関節リウマチなどの自己免疫疾患に加えて、花粉症・ぜんそく・がんなどの免疫が関わる多くの疾患に適応することができる。今後、遺伝的メカニズムに基づいた創薬標的の探索と治療法の開発に貢献すると期待できる。
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【プロフィル】石垣和慶
いしがき・かずよし 東京大学医学部医学科卒。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。東大病院アレルギー・リウマチ内科を経て2016年4月から現職。専門領域はリウマチ学、免疫学、ゲノム学。
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■コメント=ゲノム学で得られた知見からリウマチ 性疾患、免疫システムの謎を明らかにしたい。
■研究者と来場者のトークイベント「理研DAY:研究者と話そう」18日に開催
理研は、毎月第3日曜日に東京都千代田区の科学技術館で、一般を対象にした研究者とのトークイベント「理研DAY:研究者と話そう」を開催している。6月18日の理研DAYでは「心の病気とiPS細胞」について来場者と研究者がトークする。
統合失調症や気分障害といった心の病気は、根本的な治療法がなく、発症すると患者のクオリティー・オブ・ライフは一生涯影響を受ける。理研の分子精神科学研究チームは、各種ゲノム解析、モデル動物等の解析を組み合わせ、多面的角度から治療や予防に繋がるメカニズム解析を目指している。患者由来のiPS細胞を用いた最新の研究動向を交えながら、研究者とトークできる。
【開催日】6月18日(日) 第1回14:00~14:30/第2回15:30~16:00
【場 所】科学技術館4階実験スタジアム(L) (東京都千代田区北の丸公園2-1)
【料 金】無料(ただし、科学技術館入館料は必要)
【定 員】各回62人 ※当日先着順。
【研究者】豊島学研究員(脳科学総合研究センター分子精神科学研究チーム)
【テーマ】「心の病気とiPS細胞」
【参 照】http://www.riken.jp/pr/visiting/riken_day/
【問合せ】理化学研究所広報室 E-Mail:outreach-koho@riken.jp
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