月面探査車レース、日本大詰め 「HAKUTO」月内に最終試験

 
探査車「ソラト」の実物大模型=3月、東京都港区

 民間初の月面探査を目指す国際コンテストに臨む日本チーム「HAKUTO(ハクト)」の準備が大詰めを迎えている。今月中にも探査車の最終試験を開始、12月にインドのロケットで打ち上げる。全長58センチの小さな車体で世界の4チームと競う。月面での探査が実現すれば、日本の宇宙開発史上でも初の快挙だ。

 コンテストは「グーグル・ルナXプライズ」で優勝賞金は破格の2000万ドル(約22億円)。月面の着陸探査に成功したのは、国が威信を懸けて取り組んだ米国、旧ソ連、中国だけ。その状況を打開するよう民間の宇宙開発を促すのが狙いだ。

 月面に着陸後、500メートル以上移動し、高解像度の動画や画像を地球に最も早く送ったチームが優勝する。ハクトとインド、イスラエル、米国、多国籍の計5チームが参加。いずれも年内に打ち上げる。

 「宇宙を舞台にしたプロジェクトを民間の力でも達成できることを示したい」。ハクトの袴田武史代表(宇宙ベンチャー「ispace」社長)は参加の理由を語る。チームは吉田和哉・東北大教授(宇宙ロボット工学)ら約100人で、2010年に結成した。

 月面の環境は過酷だ。「レゴリス」という粉状の砂に覆われ、昼夜の温度差は250度以上。ロケットの打ち上げには搭載物1キロ当たり約1億2000万円かかる。チームは探査車の設計を7回変更し、課題解決へさまざまな工夫をした。

 車体の素材には、飛行機に使われる軽くて強い炭素繊維強化プラスチックを採用。これにより全体の重さが当初の約10キロから4キロに減り、打ち上げコストの大幅削減につながった。レゴリスでは車輪は空回りしやすいため、歯車の形にし、眼鏡フレームに使われる柔軟性のある特殊プラスチックで作った。

 月はほぼ真空で、太陽からの熱や宇宙放射線がじかに伝わる。表面温度は昼に100度以上、夜はマイナス150度以下になる。機器の劣化や誤作動を防ぐため、外装はフッ素樹脂を施し、車内が60度からマイナス25度に収まるようにした。温度差に耐える接着剤も開発した。

 最終試験では、月面に見立てた鳥取砂丘で走行性能を調べたり、真空や振動への耐久性を確認したりする。問題がなければ12月28日にインドチームの月着陸船に相乗りし、打ち上げる。到着は約1カ月後の予定だ。

 袴田代表は「優勝を目指し、打ち上げまでの準備を確実に進めていく」と意気込んでいる。