とまらぬ人口減少で神戸市がジリ貧!? ライバル福岡市に追い抜かれ出遅れ感満載

 
神戸市が進める移住体験事業「LIVELOVEKOBE」のイメージ。体験ツアーの中には着物を着付けてもらい街歩きするものもある(フェリシモ提供)

 神戸市の人口減少が止まらない。平成27年国勢調査(速報値)で、人口は153万7860人となり、福岡市(153万8510人)に抜かれ、政令市として6位に転落した。要因は若い世代が東京や大阪などに流れたり、再開発が進む兵庫県の西宮市や芦屋市、明石市といった周辺自治体に転出したりしたことが大きく影響している。そこで神戸市が取り組み始めたのが同市への移住体験事業だ。移住を考える人に最長2週間、市中心部のマンションを宿泊費無料にして神戸暮らしを体験してもらうという“豪勢企画”。人口の自治体間競争に出遅れた感のある神戸市、巻き返しを図れるか。(岡本祐大)

評判は上々だが…

 酒蔵めぐりに夜景スポットを眺めながらのランニング、異人館周辺でのアンティーク店の散策-。まるで旅行会社の観光ツアーのようだが、神戸市が移住者を増やそうと、27年12月から始めた「LIVE LOVE KOBE(リブ・ラブ神戸)」という移住体験事業だ。運営は市から委託を受けた通販大手「フェリシモ」が行う。

 情報発信はインターネットで行い、移住を考えている人をターゲットに港町である「おしゃれな神戸」をアピール。人気のパン店やスイーツ店、北野の異人館街、夜景など神戸らしさを紹介している。そして最大のセールスポイントが「宿泊費無料」だ。

 必要なのは義務付けられた体験ツアーごとに数千円程度の参加費を支払うだけで、あとは自由。神戸グルメを堪能するなど神戸暮らしを“お試し”できる。

 参加者が泊まるマンションはフェリシモが定期契約。北野、海岸通、布引の市内3エリアで1LDK程度の部屋を確保している。

 参加条件は同市への移住を検討している20~49歳の県外在住者。最短で3泊、最長で13泊し、滞在中に神戸元町おすすめケーキとPAN歩▽北野異人館アート&アンティークツアー▽神戸ファッション美術館▽眼鏡づくり▽着物で街歩き-といった100項目以上の体験プランの中から複数選択することを義務付けられている。

移住者はわずか2人

 体験事業は27年12月~28年2月、28年8月~11月の2回実施。年間の事業費は約600万円で、フェリシモが契約するマンションの賃貸料やフェリシモへの報酬なども含む。

 全国から計約1400件の応募があり、単身者や家族連れら58組82人が参加した。希望日程が重なるなどした際は抽選で決めた。

 市によると、関東からの参加者が最も多く約4割を占めた。次いで近畿や九州、中部の順で、単身者の参加が目立った。参加者のアンケートでは「実際に住んでみて気候や環境がよく生活しやすい街だと分かった」「ほかの地域と比較しながら移住を検討しているが、住んでみたいという思いが強くなった」と好意的な意見が多かったという。

 しかし、過去2回の事業で実際に移住した人は市が把握する範囲で単身者の2人だけだった。そのうちの一人、古川(こがわ)健太さん(35)は昨年3月、外資系企業を退職して横浜市から神戸市中央区に移住した。現在は職業訓練校に通い、ゲストハウスで暮らす。

 父親が神戸市出身だったことから、神戸に住んでみたいという気持ちがあったといい、移住体験事業に参加した。「実際に1週間滞在して、とても暮らしやすい街だと思った」と振り返る。体験ツアーでは、神戸在住の外国人が集うバーめぐりに参加。そのときの縁で今のゲストハウスを紹介された。「街がコンパクトで移動も便利。神戸で就職して長く住みたい」と話している。

学生は就職時に市外へ

 「人口の数だけにこだわらず、市民生活の質を高めたい」

 福岡市に人口を抜かれた直後の記者会見で、神戸市の久元喜造市長はこう述べた。しかし、市の人口は16年に阪神大震災前の人口を回復したものの、23年をピークに24年から4年連続で減少が続く。なかでも若い世代の神戸離れが深刻だ。

 市によると、15~19歳は約5千人の転入超過に対し、25~29歳は約9千人の転出超過。神戸大や甲南大など20以上の大学があり、大学入学に伴い転入が増えているのだが、「地元出身者を含め、大学入学で神戸に来ても、就職で大阪や東京に出ていく」(市担当者)のが現状だ。

 対大阪府で12年は約2500人の転入超過だったのが、26年には約700人の転出超過。東京には同比で5割増となる約1500人の転出超過だったという。

 さらに、再開発が進んだ西宮や芦屋、尼崎といった阪神地域の各市、西に隣接する明石市に対しても転出超過に陥っている。

 転出者は若い子育て世帯が中心。同じ金額で家を買うなら駅に近く、家も広くて新しい方がいい。保育施設など子育て環境も充実するなど、住みやすさが魅力的に映るようだ。こうした状況に、神戸市の関係者も「三宮周辺の再開発がこれから本格化するが、神戸市は人口の周辺自治体間競争で出遅れた」と話す。

ライバル福岡市は企業誘致50件以上

 今後も人口減が続くと、市税などの税収にも影響を及ぼす。若者が大阪や東京で就職すると、そこで家庭を持つ傾向にある。神戸市という関西の“大都会”も全国の地方都市と同じような状況になりつつある。

 神戸市は、人口で抜いた福岡市の好調の要因について、3年連続で50社以上の企業誘致に成功していることを挙げる。多くの企業が集まることで、九州や中国地方の若者の受け皿になっていると分析している。

 神戸市も28年1月にIT分野での起業を志す若者を支援する「神戸スタートアップオフィス」を開設。医療産業都市としての企業誘致も進めており、若い世代の呼び込みや引き留めに力を入れる。市担当者は「大学生の就職支援にどう結びつけられるか。若者に、神戸に魅力ある仕事があると思ってもらうことも重要だ」と話すが、後手後手感が否めない。

SNSで一定の効果?

 東京一極集中が進む中、神戸市に限らず首都圏以外の政令市でもインターネット上で移住促進策を展開する。京都市は移住希望者の電話相談などに応じるサポートセンター「住むなら京都(みやこ)」を開設。静岡市は「さくさくっと東京へ」「なかなかの都会」などのフレーズでPRし、人口確保に力を入れ始めている。

 「宿泊費無料」というインパクトで神戸市が進める事業は当初、市役所内でも「単なる観光ツアーではないか」との指摘があったという。最短3泊の条件も、休暇を取らない限り現役の会社員にとって参加のハードルは低くない。実際、参加者は在宅で仕事ができたり、転職活動中だったりする人が多かった。

 ただ、この事業の成果はなかなか見えにくい。参加者に移住の意思を確認することはしないため、本人が神戸市に移住したかは報告がないと分からない。市はこれまでの取り組みを総括し、来年度以降の実施を判断する。

 東海大文学部の河井孝仁教授(行政広報論)は「神戸の魅力を伝える語り部を増やす、という意味では効果が期待できる」と評価する。実際に住んでみた人が口コミやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で発信する方が効果があるからだ。

 一方で「どんな人に移住してもらいたいのか、ターゲットをもっと明確にすべきだ。サービスを手厚くするだけでは“お客さん”が増えるだけで移住者の増加にはつながらない」と指摘している。