驚く「欧米」冷静な「中韓」…止まらぬ「karoshi」報道、意外な“温度差”
「karoshi」報道が止まらない。10月7日午前、政府が初めての「過労死白書」を公表すると、午後には広告大手の電通で女性新入社員が過労自殺していたことが明らかになった。厚生労働省による立ち入り調査や政府主導の「働き方改革」と合わせ、海外メディアも大きく取り上げているのだが、欧米と中韓の報じ方には意外な“温度差”も見え隠れする。
SNSを引用
「日本人は文字通り死ぬほど働いている」。米紙USA TODAYの見出しは簡潔な分、衝撃の大きさが際立つ。
電通の新入社員、高橋まつりさん=当時(24)=は東大卒業後の昨年4月に入社し、本社でインターネット広告などを担当。クリスマスに東京都内の社宅から投身自殺した。三田労働基準監督署が今年9月、労災を認定している。
「2時間睡眠で休日もめったに取れず、会社からは実際の残業時間より少なく申告するよう指示されていた」
「電通本社では1991年にも24歳の労働者が自殺し、過労死問題が注目された」
同紙は事案の問題点をそう指摘し、まつりさんがソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に書き込んだ「死んだほうがよっぽど幸福なんじゃないかとさえ思って」というメッセージで記事を締めくくった。
英紙フィナンシャル・タイムズは、連日にわたってこの事案を取り上げている。厚労省による電通本社への立ち入り調査を報じた14日の記事では「電通が日本の一流企業であるため無視できない事案だと政府がみなしたことが、国民に衝撃を与えた」と分析した。
一方、英誌エコノミストは「過労死白書が働き方改革の必要性を示している」と指摘。労働生産性の指標となる就業1時間当たりの国内総生産(GDP)を比較し、こう強調した。
「過重労働は経済の役に立っていない。労働者が燃え尽き、ときに死ぬという事実は、悲惨であるだけでなく無意味だ」
「あした娘のプレゼントを買いに行くんだ」
電通の過労自殺以外にも報じられた事案がある。
「青年の心臓疾患は、日本の『過労死』文化が原因だった」との見出しを掲げたのは、英紙ガーディアン。外国人技能実習生だったフィリピン国籍のジョーイ・トクナンさん=当時(27)=の過労死を取り上げた。
トクナンさんは岐阜県の鋳造会社で実習生として勤務。2014年4月に従業員寮で死亡した。岐阜労働基準監督署は、直前3カ月間の時間外労働が「過労死ライン」の月80時間を上回る月96~115時間だったとして、今年8月に労災を認定している。
「彼は乏しい給料の大半を妻と5歳の娘に送金していた。あした娘のプレゼントを買いに行くんだ、と同僚に話した翌日に亡くなった」。記事ではそんなエピソードも明かされている。
同紙は、電通の過労自殺についても取り上げた上で、精神的な悩みを持つ人々の相談に乗る公的機関の電話番号を、記事の末尾に記していた。
外国人実習生の過労死は、ほかにも仏紙ルモンドなどが報道。「karoshi」が日本人以外にも広がっている典型例として、海外メディアの関心の高さをうかがわせた。
中国、国内問題に触れず
一方、韓国の中央日報日本語版は「日本政府が作成した過労死白書は世界で初めて」と報じ、白書が示したデータを重視。企業の22・7%に月80時間を超える時間外労働があったとするアンケート結果を伝えた。
合わせて「韓国の労働時間は日本を大きく上回る」とも指摘。昨年1年間の1人当たりの平均労働時間を比較し「韓国の労働者は日本より50日多く働いた格好だ」と、自国の長時間労働に警鐘を鳴らした。
中国の政府系機関紙・人民日報のニュースサイト、人民網日本語版は「日本で『過労死』が頻発 企業の悩みの種に」と題した記事で、やはり過労死白書の内容を報じている。
同紙は2013年に「中国の過労死は日本以上? 『中国の夢』は残業なし?」として、60万人にのぼるとの説がある中国の過労死問題を報道。
だが、今回は「過労死問題は、1980年代後半から日本で注目を集めはじめた」「高度経済成長期に生まれ、30年以上も日本社会で悩みの種となってきた」などと淡々と伝え、国内の実態には触れなかった。
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