大迷惑!レンタサイクルで暴走する中国人観光客 マナー悪く、逆ギレ当たり前?
近鉄奈良駅近くを歩いていると、「チリンチリーン」という音とともに自転車が数台、肩をかすめて通り過ぎた。見れば、中国系の観光客。隊列を組み、自転車で歩道を走っていた。「危ないなぁ」。そういえば最近、奈良市内の観光スポット周辺では、自転車で周遊する外国人観光客をよくみかける。市内のレンタサイクル店では、利用客の中心は中国、台湾、次いで韓国からの客だという。だが習慣や気質の違いからか、マナーの悪さやトラブルも目立つ。「一歩間違えば大事故につながりかねない」。秋の観光シーズンを前にそんな懸念も取り沙汰されている。(神田啓晴)
車へ当て逃げも
奈良市でレンタサイクル店を展開する「ヤマト観光レンタサイクル」。近鉄奈良駅前とJR奈良駅前の2カ所で計約340台を用意し、多いときは1日100台前後を貸し出しているという。
以前は自転車販売店だったが、観光客の増加に伴い4年前にレンタルサービスを始めた。利用客の中心は中国、台湾からの外国人観光客だ。
毎日整備を欠かさない誠実な対応で、利用客の評判は上々。日本製の自転車を気に入って「売ってほしい」との声もあるという。特に中国人観光客の来店はSNSなどの口コミの影響もあり、右肩上がりが続いている。
だが、経営する花房真彦さん(45)は「外国人のお客様の場合、自転車事故やトラブルがある」と話す。
台湾から来た若い男女10人が電動アシスト自転車を借りたときのこと。東大寺周辺の下り坂を走行中、1人が急ブレーキをかけたため、後続が転倒。店には警察から連絡が入った。幸い軽傷で済んだが、一歩間違えば大事故だった。
警察からは、「そちらで自転車を借りた韓国人が車と接触事故を起こしたが、保険には入っているのか」と連絡が入ったこともある。韓国人女性2人が車に自転車をぶつけ、そのまま通り過ぎようとしたため、車の運転手が呼び止めて警察に通報したという。花房さんは「『車にぶつけても気にしない』という文化なのか…。貸し出す前にルールやマナーは説明しているのですが、難しいですね」と話す。
同店には事故などの報告はないが、街中で最も暴走が目立つのはやはり中国人のグループだ。家族連れらしき集団が下り坂の歩道を猛スピードで駆け下りたり、若い男女のグループが両側2車線の道幅いっぱいに広がって走ったり。歩行者の方が気をつけていないと、事故が起きかねない状況だ。
「注意しない歩行者が悪い」
記者は中国・上海で6年間生活していたが、奈良を爆走する中国人観光客の姿を見ると、思い当たることがある。
上海は、朝夕の通勤通学ラッシュ時は車が渋滞するためか、ある程度の距離までなら自転車を使う市民が多かった。車道の脇に自転車道が設置されている道路もあったが、ラッシュ時は自転車やバイクが所狭しと並走、車の前を平然と走行する自転車もあった。
敷地面積が167万平方メートルと広大な上海大学では、学内の移動には自転車が必須だった。だが、「歩行者優先」という発想はなく、人通りの多い時間帯でも猛スピードで走る自転車が多かった。歩いていて、「当心!当心!(気をつけて)」と叫びながら近づいてきた自転車にぶつけられたことも何度かあった。
しかも、ぶつけた方が「気をつけろよ」と怒るのが普通で、謝罪されたことはなかった。電動アシスト自転車やバイクで歩道を走行する“不届き者”も多く、追突されて思わずうずくまると、「注意しないで歩いているお前が悪い」と罵(ののし)られた。
日本の常識では考えられないが、上海では多少の接触ならそのまま通行する人が大半だった。そんな中国人観光客に文化や習慣、マナーの違いを理解させるのは、簡単なことではないだろう。
パンクは「整備が悪い」、かごはごみ箱
花房さんは利用客のマナーの悪さにも悩まされている。
パンクし、タイヤのチューブもちぎれた状態で自転車を返却した中国人男性は「こんなことになった」と平然と話し、悪びれた様子もない。「これはさすがに修理代を請求したい」というと、「整備が悪い。パンクしたのはこちらのせいではない」と逆ギレされ、押し問答に。男性客は「適正な利用」をしたという主張を最後まで曲げなかった。
観光中に飲食した弁当やペットボトルを自転車のかごに詰めて返却する利用客も多い。子供の使用済みおむつや、たばこの吸い殻などが無造作に詰め込まれている場合もあるという。「自転車のかごをごみ箱だとでも思っているのか。ごみの分別も大変だ」と花房さん。
マナー違反は外国人だけでない
一方“公平”を期すためにいうと、日本人にもマナーの悪い利用者はいる。忘年会で大阪から訪れた約30人の団体客は、近鉄奈良駅周辺のコンビニ前に自転車をずらりと並べて駐輪。花房さんは、レンタサイクルのステッカーを見た店主から「自転車が並んでて迷惑。今すぐ取りに来てほしい」と怒られたという。
さらに戻ってきた客に事情を聴くと、「班ごとに別行動で移動している。うちじゃないよ」とはぐらかされたという。
観光地の中に住宅や店舗が立ち並ぶ奈良市中心部は自転車が走行しにくい狭い道も多く、駐輪するスペースも十分とはいえない。
近鉄奈良駅から南に延びる「東向商店街」は自転車走行禁止だが、同商店街協同組合の中山曜誠理事長は「違法駐輪やアーケード内の自転車走行などが目立つ。マナー違反の多くは通勤通学の地元住民だ」と明かす。
警察と連携してビラを配り、看板を設置して「自転車通行は禁止です」とのアナウンスも流しているが、「効果は限定的で、問題は解消していない」と半ばあきらめ顔だ。
東向商店街の西側にある「小西さくら通り商店街」も平成26年3月以降、車両通行禁止になったが、何台もの自転車が通り抜けている。細い通りは観光客や買い物客であふれており、事故の危険性がつきまとう。
外国人にも高額賠償のリスク
昨年6月1日から施行された改正道交法では、悪質な自転車運転者の取り締まりも強化された。歩行者用道路での歩行者妨害▽路側帯通行時の歩行者の通行妨害▽酒酔い運転▽通行禁止道路(場所)の通行-など「危険行為」14項目を定め、3年以内に2回以上の危険行為を繰り返した運転者には自転車運転者講習が義務づけられた。
自転車事故に高額賠償が命じられるケースも増えている。神戸地裁は平成25年、自転車に乗っていた当時小学5年の男児が歩行者の60代女性に衝突、重傷を負わせた事故で、男児の母親に約9500万円の支払いを命じた。
これを受け、兵庫県は27年10月から自転車利用者の保険加入を義務化。大阪府も同様の取り組みを今年7月から始めており、滋賀県も10月からの義務化を決めている。
奈良県警も、自転車利用マナーとルールの周知徹底に取り組んでいる。奈良署は今年2月、英語と中国語の「交通安全ガイドライン」を管内のレンタサイクルショップ8店に50枚ずつ配布。外国人観光客交流施設「奈良県猿沢イン」(奈良市)のほか、商店街などでも配布している。
ガイドラインでは、自転車での信号や踏切の渡り方など基本的なルールを示したほか、「歩道は歩行者優先で、(自転車は)車道よりを徐行」「2人乗り、並走は禁止」「2段階右折、一時停止標識」など、日本の運転マナーを詳しく説明している。
奈良市内の自転車での人身事故発生件数は、平成28年1~7月が113件と前年比で15件減少、重傷者も前年比で6人減った。だが、奈良署の今村浩三・地域交通官は「件数はあくまでも確認できた数。自転車によるひき逃げ、当て逃げを考慮すればもっと多いはず」という。
増え続ける外国人観光客への対応も課題。今後は外国人留学生らを対象にしたマナー講座も開く予定で、今村地域交通官は「外国人でも高額賠償や事故のリスクは日本人と同じ。マナーの周知を図り、奈良が安全な観光地になるように尽力したい」と話している。
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