韓国人のキムチ離れ深刻…5年で20%減 「タクアンが好き」「中国産まずい」

 
素材も漬け方もさまざまなキムチ(韓国観光公社提供)

 韓国発で世界に広がったキムチ。韓国人であれば、誰もが好み、食事になくてはならない副食と思われてきた。だが、大阪・ミナミで、訪日した韓国の若者に聞くと、「辛いものは食べられない」「なくても暮らせる」「食べても1切れか2切れ」などという声が聞かれた。キムチより日本由来のタクアンが好きという人もいた。韓国では、白菜キムチの摂取量がこの5年間に21%も減少しており、政府系研究所の調査では、1年間に1度もキムチを食べなかったという回答が2・5%を占めた。食習慣の西洋化が背景として指摘されている。韓国の食文化に何が起きているのか。(張英壽)

 キムチがなくても…洋食、日本食へ

 1日3食のうち何食でキムチを食べるか。韓国語がそこかしこから聞こえる大阪市中央区の道頓堀界隈(かいわい)。韓国からやってきた若い観光客に、この質問をぶつけてみた。

 「私は普通の韓国人のようにキムチが好きではない。辛いのは食べられない。1食だけです」

 こう答えたのは、韓国南東部の大都市、大邱市の男性警察官、尹徳(ユン・ドク)さん(24)だ。

 「そのほかの食事はファストフードとか洋食とか日本食などですね」

 ソウル市の女子大学生、崔佳英(チェ・カヨン)さん(22)は「1食食べるかどうか。食べるときでも1切れか2切れ」。ほかの食事は「回転ずしやスパゲティ、それにラミョン」という。ラミョンとは、ラーメンのことだが、韓国ではほぼインスタントラーメンを指す。必ずキムチと一緒に食べるのだが、佳英さんは「キムチとは食べない」という。

 佳英さんは「韓国ではキムチは家でつくらなくなっている。買って食べる人が多いけど、工場でつくるからおいしくない」とこぼした。

 「韓国人のうち半数は好きだけど、残りの半数は好きではないのでは」と話したのは、韓国南東部の蔚山市から来た男子大学生、崔宰栄(チェ・ジェヨン)さん(25)。宰栄さん自身は3食キムチを食べるというが、「キムチがなくても、ほかにいろんな食べ物がある」と語る。

 なくても暮らせる…3年食べなかった

 それでは、キムチなしに何日耐えられるだろうか。聞いてみた。

 ソウル市の男子大学生、兪スンヒョンさん(21)は「1週間くらいは耐えられる」と自信ありげに答えた。「家だと3食キムチを食べることもあるけど、外食だとピザやステーキ、すし、どんぶり、日本そばなどを食べる。キムチは好きだけどなくてもいい」という。兪さんがあげたピザやステーキ、日本食のどんぶり、日本そばは、この世代の若者にとってはありふれた料理だ。

 「1カ月は大丈夫」と豪語したソウル市の男子大学生、趙大勲(チョ・テフン)さん(28)は「韓国にいてもキムチは食べない」という。「辛いのは好きだけど、口に合うキムチがない」と不満げで、代わりになんと「タクアンが好き。タクアンがあれば大丈夫」と打ち明けた。インスタントラーメンであるラミョンはキムチを必須の取り合わせとするが、タクアンと合わせるのだそうだ。

 韓国におけるタクアンについては少々説明がいる。飲食店でうどんや韓国風のり巻き、オムライス、トンカツなどを頼むと、キムチとともにタクアンが出てくる。韓国人にとってキムチに次いでポピュラーな漬け物かもしれない。かつて「タクアン」と日本語で言ったが、今は「タンムジ」と韓国語化している。

 「キムチがなくても暮らせる」とさらに上を行く回答をしたのは、3年にわたる日本生活の経験があるレストラン職員の女性で、ソウル市の石杞晶(ソク・キジョン)さん(24)だ。「韓国でもキムチが嫌いな人は多い。好きが7、嫌いが3くらいでは」

 石さんは日本時代の3年間、ほとんどキムチを食べず、生姜漬けのガリをキムチの代わりに食べてしのいだという。「ほしかったけど、なかったから。日本のスーパーのはまずいし」と思い出す。現在は韓国で暮らしているが、本国のキムチも「中国産が多く、まずい」と不満を述べた。

 若者は3食のうち1食でキムチを食べるとの回答が目立ったが、年配の人を中心に3食とも食べるという声も多かった。京都の大学に留学中の男子学生、朴仁英(パク・イニョン)さん(19)は「韓国では3食キムチだった。日本では外食のときは仕方ないけど、家では持ってきたキムチを食べている」と話した。

 白米摂取量も17%減…コンビニで簡単に

 韓国保健福祉省が毎年調査を実施している国民健康統計で、キムチの中で最も一般的な白菜キムチの摂取量は1日1人あたりで、2009年は79・5グラムだったが、2014年は62・5グラムと5年の間に21%も減少している。

 この調査では、主要食品の1人あたりの1日の摂取量を示しており、白菜キムチとともに白米も大きく減っている。白米の摂取量は、2009年182・3グラムだったが、2014年は151・7グラムと17%減少している。

 同省疾病管理本部の担当者は「韓国ではキムチはご飯とともに食べるので、この2つは関連性がある」と話す。そのうえで白米とキムチがともに減少している原因については「コンビニを利用して簡単な食事をとることが多くなったため」とし、「今後もこの傾向は続く」とみている。

 韓国南西部の都市、光州(クヮンジュ)市にある政府系機関「世界キムチ研究所」は、今年6月「2015年度キムチ産業動向」を発表した。それによると、2015年1年間のキムチ消費量を1600万6千トンと算出している。

 また、1905人を対象に、2014年冬から2015年秋の1年間、キムチを食べた経験について質問。その結果、回答者の2・5%が1度もキムチを食べていなかったことが分かった。

 1年間キムチを食べなかった理由として「パン類など西洋式食事が増えたたため」が最も多く59%を占めた。次いで「朝食を食べなかったり、米飯を食べなかったりするケースが増えたため」が12・8%、「特異なにおいや食後の美観上、私生活に負担になるため」が10・3%となっている。「食後の美観上」とはよく分からない表現だが、取材すると、研究所の担当者は「(キムチの)唐辛子が歯や口の周り、服につくことだ」という。

 この中で、注目すべきなのは、「特異なにおい」だろう。キムチはニンニクなど薬味類が入っているため、においがきつい。かつて韓国人はあまり気にしなかったが、それを嫌っていおり、時代の変化が読みとれる。また「西洋式食事」や「米飯を食べない」を理由にあげているのは、キムチは必ず米飯と食べるものという前提がある。

 中国産急増、「キムチ宗主国」の立場は…

 キムチ産業動向では、キムチの輸出入も詳述している。ここ数年、輸出が減少する半面、中国からの輸入が大きく増えている。中国からの輸入が大きく伸びたのは価格の低さも原因の一つとみられる。

 輸出は2010年に2万9672トンだったが、2015年は2万3112トンと22%減少した。一方、輸入はこの間、19万2936トンから22万4124トンと16%増加している。

 輸出は2000年でも2万トン台で大きな変化はないが、輸入は同年には473トンしかなく、2015年にはなんと474倍に達している。急増した輸入は近年、ほとんど100%が中国からだ。対中国に限ってみると、輸入が輸出を超過しており、キムチの貿易収支はマイナスが続いている。赤字幅は2005年は5126万2千ドルだったが、2010~2015年は1億ドルを超えている。

 キムチ産業動向では「中国人はほとんどの食材料を揚げたり焼いたり、蒸したりするなど、火を入れて食べるため、加熱しないことが基本属性であるキムチに対する中国の消費者の需要はそれほど大きくない」と分析している。

 減少する韓国内のキムチ摂取量と急増する中国の輸入キムチ。

 キムチ産業動向の中で、世界キムチ研究所の朴完洙(パク・ワンス)所長はキムチについて「外国で関心を持ってもらうことだけを望む受動的な態度では、キムチ宗主国(発祥の国で中心)の地位を守り通すことは難しい。もう少し積極的姿勢で、キムチというよい製品をどうすれば、もっと多く、もっといろいろなところに売れるのか、経済的なマインドを持って接近しなければならない」と指摘している。

 日本では漬け物生産量1位だがブームの半減

 ところで、日本でのキムチ人気はどうなのだろうか。

 一般社団法人食品需給研究センター(東京)が調査した「野菜・果実漬物」の昨年の生産量では、「キムチ」はトップの19万2177トン。輸入を含まずあくまで日本国内で生産された数値だが、2位の「浅漬」(13万4078トン)を引き離している。とはいえ、同じ昨年、人口が日本の半分以下の韓国のキムチ消費量は1600万6千トンで、日本のキムチ生産量の実に83倍だ。

 このほかの漬物では、「たくあん漬」4万6498トン、「福神漬」5万7523トン、「梅干・梅漬」2万6466トンとなっている。

 ただキムチ生産量が平成に入って最高だったのは、平成14年の38万6210トンで、当時と比べると約半分に減っている。

【キムチ】

 朝鮮半島で生まれた乳酸菌発酵の食品。7世紀から野菜の塩漬けが始まり、12世紀頃には、ニンニクやサンショウなどの香辛料が加わった。16世紀に日本から唐辛子が伝えられ、19世紀にはほぼ現在の形ができあがった。語源は「沈菜(チムチェ)」とされ、長い歳月の中で、キムチという発音に変化した。日本でよく知られる白菜キムチやダイコンを角切りにしたカクテキ、キュウリのキムチ、汁が多くあっさりした水キムチなど100種類以上があるとされる。