中国で紛争は不可避、戦う戦略を
生かせ!知財ビジネス□道下理恵子弁護士に聞く
中国国家知識産権局の「2015年中国知的産権保護状況」によると、知財関連の新規民事訴訟は前年比14.49%増の10万9386件と爆発的な増加を続けている。中国市場進出に立ちはだかる訴訟問題に日本企業はどう対峙(たいじ)すべきか。日本人で初めて中国人民大学法学院で学んだ中国ビジネス・知財法務の第一人者、バード&バード北京の道下理恵子・パートナー弁護士に聞いた。
--中国市場進出の現状は
「依然タフな市場だ。外国企業が新市場を開くと摸倣企業などが多数出現し、市場を浸食する。法制度は整ってきたが、外国企業が訴訟しても地域で違う判決を出すので勝敗の予測がつかなかったりする」
--侵害があった際の日本企業の対応はどうか
「日本企業は訴訟になる案件には十中八九対応しないので侵害に寛容だと思われている。(特許など)権利化活動には非常に熱心で(事業)防衛をよくやっているように見えるが、権利行使の経験は少ない。中国では戦わないでいると市場の占有率はどんどん小さくなる」
--特許権をとる意味がないような気がするが
「中国に進出すれば絶対紛争に巻き込まれるので進出時に考えるべきことは紛争を避ける戦略よりも、戦いを前提にした戦略だが、それができていない。例えば侵害発生を想定して市場を定期的に監視し、侵害企業が一定数出てきたら見せしめの1社へ訴訟を仕掛けるプランを用意しておく。知財部門は紛争を経験することで、これまで権利化してきた知財の欠陥を知るようになる」
--訴訟を仕掛けるときのポイントは。
「勝訴よりも訴訟でもたらされるPR効果にこそ大きな狙いがある。知財部門は広報部門などとどのようなPRや記者発表をしていくかを考える必要がある」
--戦う姿勢を中国社会に示すということか
「中国企業が仕掛けてくる紛争には情報戦がからんでいる。メディアを操作するのが非常に上手で対応も戦略的で早いため、日本企業が侵害を放置していると、中国大衆は中国企業の方が権利者かのように認識してしまう。中国企業には訴訟PR部門があり、専門家がついている。裁判所も世論の影響を受けることがある。メディア戦略は重要なポイントだ」(知財情報&戦略システム 中岡浩)
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