AMEDの役割と戦略(下)

生かせ!知財ビジネス
AMED本部があるビル。研究成果の社会実装を目指し、AMED知財部は活動を進めている=東京・大手町
AMED本部があるビル。研究成果の社会実装を目指し、AMED知財部は活動を進めている=東京・大手町

 ■アカデミア活用する伸び代大きい

 誕生から1年を迎えた日本医療研究開発機構(AMED)。大学・研究機関と企業はどう連携していくべきか、初代知的財産部長の天野斉氏(特許庁)に聞いた。

 --日本の医薬・医療機器分野の知財のレベルは

 「産業としては貿易赤字の状態で、医療分野研究開発推進計画でも2020年に向けて輸出倍増などの改善目標が示されている。年間約30万件ある国内特許出願のうち医薬は2500件、医療機器関連は1万件だがライフサイエンス・臨床医学分野の論文は年間3万数千件あり、引用件数も多く、世界トップクラスと考えてよい」

 --基礎研究力が産業競争力に反映されていない

 「日本の製薬会社は基礎研究を控え、その部分はアカデミアに期待しているところがある。過去10年に米国で承認された医薬品の約60%は大学・研究機関とバイオベンチャー由来の研究だが、日本では20%もない。日本のアカデミアを活用する伸び代は大いにある」

 --それには特許戦略の連携も必要だ

 「企業は製品の利益回収期間を延ばすため満を持して特許出願する。半端なタイミングで大学に論文や特許を出されるのは困る。産業界と大学の間でこの問題をずっと話し合っているが、今後はさらに複雑になる。再生医療やバイオ医薬などでは、1つの物質特許だけでは成立しない。新薬では臨床試験のデータ保護期間(米国は12年間)交渉が企業の知財戦略に絡んでくる」

 --産学での意思疎通はさらに重要になる

 「そうだ。しかし最近、医療機器などの開発で、企業と連携している病院からは、製品開発におけるニーズ提供の対価として報酬を支払うべきとの声が高まってきた。ニーズに対する解決策を出した人は特許がとれ、企業は製品化で利益を得ているからだ」

 --病院はより高度な医療機器を得られるのでは

 「その機器は購入しなけらばならない。感情的問題もある。ニーズを出し渋られると、企業は開発が難しくなる。われわれは今年度、医工連携でのニーズ提供と活用に関する実態調査と報酬支払いなどに関する解決策の提示を検討している。米国の大学ではデザイン思考のイノベーションの考え方として、現場関係者と討議した成果から製品化や起業する手法が一般的だ。そのとき、アイデアは誰のものかという整理は重要だ」

 --今後の方針は

 「目指すのは社会実装という出口だ。知財の面から、橋渡し機関としての貢献を真摯(しんし)に果たしていきたい」(知財情報&戦略システム 中岡浩)