「コンビニ人間」で受賞した村田沙耶香さん「コンビニへの愛情を形にできた」
芥川賞会見初ノミネートで第155回芥川賞を射止めた村田沙耶香さん(36)。受賞作は、18年間コンビニのアルバイト店員を続ける36歳の未婚女性を主人公にした「コンビニ人間」(「文学界」6月号)だ。自身も現在、コンビニでバイトを続けており「コンビニ愛」から生まれた作品でもある。
ベージュのゆったりとしたブラウスに同色のパンツ、パンプスという上品な装いで記者会見場に現れた村田さんは、終始にこやかに撮影と会見に応じた。
--今のお気持ちは?
「奇跡のようでとても信じられません。まだふわふわしているのですが、とてもとてもうれしいです。ありがとうございます」
--コンビニでバイトしているというのは本当ですか? 今後も続ける予定ですか?
「今日も働いてきました。これからバイトを続けるかどうかは、ちょっと、店長に聞いてみます」
(会場から笑い)
--コンビニ小説での受賞については?
「コンビニは自分の聖域なので、書くことはないと思っていたが、なぜか、書いてみようと思った。いいことかどうかはわからないが、ずっと働いてきた場所に対する自分の愛情を形にできたことは良かったと思っています」
--今日も午前8時~午後1時まで、(コンビニで)仕事でしたか?
「普通通りです。今日は忙しい日だったので、がんばって働いてきました」
--今までは知らないことを書くのが楽しいと言っていたが、今回はよく知っている場所でした
「そうですね。よく知っている場所といっても、自分の知らない世界を発見できた気がする。それが、いつも小説を書く中で楽しいこと。今回も楽しかったです」
--具体的には?
「コンビニという自分の中では愛着のある場所が、小説家の目で見つめ直したときに、グロテスクになる感じが面白かった」
--選考委員を代表して川上弘美委員が、コンビニでしか働けないというある種、特異な人間を綿密に描くことで、かえって社会の“普通”というおかしさをユーモアを持って描いた点が大変面白かったという評価があった
「すごくうれしいです。私は人間が好きという気持ちで小説を書いているので、人間の面白さとか、おかしさとか、そういう部分が表現できたとしたら、うれしいです」
--コンビニでの仕事はいつからされていますか?店長さんは受賞のことをご存じですか?
「店長にはそんなに詳しく小説のことは伝えていないので、多分知らないのと思います。初めてバイトをしたのは大学生の頃でしたが、主人公のようにずっと続けていたわけではなく、小説に専念したこともあるし、違うバイトをしていたときもあります。ずっとコンビニだけに専念していたわけではないのです」
--改めて、受賞の連絡を聞いたときの気持ちは?
「担当さんと2人でいつもどおりおしゃべりをしながら、待っていました。突然受賞の電話がきたときは、まだ、信じられなくて…。川上さんの言葉を聞いて、だんだんと実感が湧いてきました」
--両親にも作家だと言っていない時期があったとか
「デビュー当初は言わず、母にだけこっそり言って小説を書いていたんですが、ある日、“バレてるよ”と知らされました。(芥川賞の)候補になった時点で私ではなく、(知人から)家族のところにいっぱい連絡がいったようで“そういうことになっているみたいね”と家族からメールをもらいました」
--行き詰まるような切実なテーマが多かったが、今作は笑えた。心境の変化は
「そうですね。シリアスな小説を書いているときも、“笑ってしまった”と言われるのはうれしかった。そういう部分をふくらませたかった。人間をもっとユーモラスに、もっといつくしむようなまなざしで書きたいと。読んでユーモアを感じる小説を書きたかった。今回、初めて実戦できたのかもしれない。自然にユーモアがでてきた」
--ご自身の生活の一部である聖域のコンビニを書こうと思ったきっかけは
「書くことを通して、人間の何かを知りたいという欲求がすごく強い。書くことを通じて、自分が気づかなかった人間の一部、人間の状態を知りたい思いは強く、他の作品とそこは全く変わりません」
--コンビニ愛をどこに感じるか?
「コンビニは、小さい頃から不器用だった自分が初めて何かをまともにできた場所です。ある意味では、ずっと美化した場所で働いていたことになるので、小説の場としては、あまり良くなかったかもしれない。ちゃんと小説のまなざしで、見ないといけなかったのかもしれないと、この小説を書いてみて思いました」
--小説家の意地悪な目線で、冷凍保存されたものが解凍したと、以前話していたが
「“小説家の意地悪な目線を通す”と、そうだな…。意地悪というより、人間のちょっと変なところ、コンビニで働きつづ、例えばちょっと仕事をばかにしたことを言っている人の表情を、いじわるというより、面白いな、人間らしいなとみていた。そういったことが、頭の中に冷凍保存されて蓄積されていったのかなと」
--(主人公のような)30代で恋愛経験ナシという人に対する社会の視線の違和感は
「作家という特殊な職業だからか、私自身はそこまで感じることはありません。でも、同世代の友人は、そんなような話もします。私は人と話すのが好きで、そういう話をするうちに、そういう苦しみが種として自分の中に残り、テーマにしようしたのかも」
--最後にひとこと
「この場所にこられると思っていなかったので、うれしいです。本当にありがとうございました」
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