「本番の性行為がダメだったとは…」AV業界激震 次々と明らかになる悪質撮影
【衝撃事件の核心】
大手プロダクションの摘発に業界中がどよめいている。所属していた女性を実際の性行為を含むアダルトビデオ(AV)の撮影に派遣したとして、警視庁が労働者派遣法違反容疑で大手プロダクション「マークスジャパン」(東京都渋谷区)の元社長や社長ら3人を逮捕した事件。一連の捜査で、いわゆる本番行為の常態化や女性の悪質な勧誘など、さまざまな問題が明らかになりつつある。AVをめぐる事件は過去にもあったが、今回の大規模捜査を機に、国も実態把握に本腰を入れる方針だ。
ピル服用で…AV撮影で横行する実際の性行為
「私は逮捕されるんですか?」
5月23日、マークス社に家宅捜索に入った捜査員に対し、同社の関係者は思わずこう尋ねたという。なぜ捜索されているかいまひとつ理解できていない様子の関係者らを尻目に、捜査員らは段ボールに資料を入れていった。
捜索は女性の派遣先とされるメーカー「CA」(港区)にも及んだ。CAは「DMM・com」グループでAV業界最大手。業界内に動揺が広がった。
実際の行為は同法の「公衆衛生上有害な業務」として規制されている。作品のモザイクの有無は関係ない。ところが最近は無修正をうたう海外発の動画配信サイトの拡大などで、AV撮影での実際の行為はほとんど当たり前になっている。
「本番行為がダメだと今更強く認識している関係者はいなかったかもしれない」と業界関係者。「過激な撮影のため女性はその都度、経口避妊薬の服用と性病検査を続けさせられていたようだ」と、捜査関係者も最近の傾向を問題視する。
契約書に「成人向けの作品“も”出演する」の文言
発端は女性の相談だった。相談からは契約の強引さも浮かんだ。
女性は平成21年に別のモデルプロダクションからマークス社を紹介され、当時の社長に「グラビアモデルとして契約してもらう」と説明され、契約書にサインした。女性は契約書をよく読ませてもらえず、写しも受け取っていなかったが、「成人向けの作品も出演する」とする文言が書かれていたという。
その後、女性はAVの撮影現場に連れていかれ、女性が撮影を拒否すると、「サインしたじゃねえか」「スタッフがもう集まっているだろう」「違約金を払え」などと数人で取り囲んで数時間にわたって軟禁状態にし、撮影を強行。1本撮影すると次々撮影することになり、約5年間出演させられた。知らないうちに無修正の作品も出回っており、弁護士らとともに警視庁に相談した。
長年業界に携わった関係者によると、こうした強引な撮影はほかのプロダクションやメーカーでも横行しているという。契約書や台本の内容は曖昧で、女性に何をさせるか知らせないまま事を進めていくのが常套手段。
「最近は利益を出そうと、行為の過激さや奇抜さがエスカレートする傾向にある。もう辞めたいと泣いていた子は何人も見た。人権侵害と言われても仕方ないケースもある」と明かす。
ポルノ被害と性暴力を考える会によると、同会に寄せられる相談は26年ごろから急増している。モデル事務所と偽って契約し、AV出演を余儀なくされたなどといったケースが目立っている。
相次ぐAV業界めぐるトラブル…摘発までに時間も
AV業界をめぐっては平成20年、モザイクの薄い作品を合格させたとして、自主審査機関「日本ビデオ倫理協会」(ビデ倫)の審査部門責任者が、わいせつ図画頒布幇(ほう)助(じょ)容疑で警視庁に逮捕された。
16年には撮影で女性に悪質な暴行を繰り返したとして、メーカーの代表らが強制わいせつ容疑で逮捕され、後に強姦致傷罪で有罪判決を受けた。
同庁保安課によると、労働者派遣法違反容疑での摘発は9年ぶり。これだけ実際の行為が蔓(まん)延(えん)しているにも関わらず摘発例が少ないのは、性犯罪などと同様、女性が特定されることなどを恐れて裁判などで証言することに消極的になってしまうためだ。
同庁は26年から十数件、女性から相談を受けているが、途中で相談を取り下げる女性もおり、摘発に漕ぎ着けるまで時間を要した。
「事件化だけで悪質な状況を変えることは難しい」「メーカー側も責任を負う仕組み必要なのではないか」。事件を機に、一部の業界関係者からはこういった声も上がっている。
一連の問題を受け、内閣府や関係省庁は実態把握を進める方針だ。内閣府は、啓発の推進や、被害者が相談しやすい体制づくりを通じて、効果的な支援の拡充を図ることを決めた。
内閣府暴力対策推進室の担当者は、「世間の関心も高く、放っておけない問題となっている。支援団体への聞き取りなどを通して、何が必要か把握していきたい」と話している。
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