2021.7.6 17:00
未上場のスタートアップ企業に出資し、成長を支援するベンチャーキャピタル(VC)は、資金だけでなく、さまざまなリソースを提供している。産業育成にとって欠かせない存在だが、その全体像はあまり知られていないのが現状だ。新興企業の羅針盤の役割を果たしてきたVCを取り上げる「価値共創」。1回目の今回は、1973年に創業した老舗VCの「ジャフコ」(東京都港区)を取り上げる。
価値向上のための試行錯誤
――そもそもVCとはどのようなビジネスモデルなのでしょうか
ジャフコ パートナー、北澤知丈氏:
成長を目指すスタートアップ企業に対し、資金面の提供を行うのがVCです。人材の採用や営業、ネットワーク、管理体制の整備といったリソースも提供します。
収益モデルで言えば、投資という形で株式を取得することになります。投資したスタートアップ企業が将来、成長すれば成長した分だけ株価が上がることになりますから、IPO(新規株式公開)やM&A(合併・買収)のタイミングでキャピタルゲイン(譲渡益・売買益)を得るというモデルになります。2021年3月期には上場、未上場合わせて113億円のキャピタルゲインを得ました。
VCにはもう一つ、投資運用業という側面もあり、資産を運用したいお客さまからお金を預かってファンドを運用しています。資金を適切にスタートアップに流し、リスクに見合ったリターンをしっかりとお返しするというのが、わたしたち資金を預かるVCの責任でもあります。
――投資リターンの目標や投資方針はどうなっていますか
北澤氏:
金融機関や事業会社など、投資家の皆さんからVCファンドに出資していただいて運用しています。運用期間中の解約はできない承認なので、その分、金融商品の中でも、高いパフォーマンスが求められています。ジャフコの投資方針は、厳選した会社に相応の資金を投入し、当事者として企業価値を向上させることに尽きます。これを「厳選集中投資」と呼んでいます。
ジャフコでは年間20~30社に出資していますが、一般的なVCの平均からすると少ない方ではないかと思います。今、組み入れを行っているファンドは約800億円です。国内の中でも大きい資金を運用しているのですが、出資先の企業数は少ない点が「厳選集中投資」の特長といえます。
――出資先を厳選して集中投資しているということでしょうか
北澤氏:
ジャフコが投資対象としている会社のステージとしては、シード・アーリー期のスタートアップ企業がメインとなります。グローバルで戦えるスタートアップを育てていく際、厳選した会社に集中して資金を投下することで、しっかり大きい会社を作っていけるようにしているのです。
ジャフコ 執行役員 松本季子氏:
ジャフコが創業した1973年当時は、日本における未上場企業の資金調達の手段として、新たに直接金融の市場を開いていこうとしていました。
ポテンシャルは高いのに、リスクが高いと判断され、金融機関から調達する手段がないという企業に資金調達の道筋をつけていく。80年代以降、ファンドを使って投資家からリスクマネーを募るようになり、黎明期は海外機関投資家の資金に支えられてきました。現在の資金の出し手は国内の金融機関、事業会社が中心です。投資先企業が成長し、ファンドのパフォーマンスが向上し、そのリターンをまたファンドに出資してもらう。シンプルな循環構造ですが、社会経済環境が大きく変遷してきたなかで、継続していくのは容易なことではありません。
80年代に海外へも進出
――金融系、商社系、大学系とさまざまなVCがありますが、ジャフコの特徴は
北澤氏:
VCは独立系か金融系か、それ以外かに大別されます。ファンドの特定のオーナーがいる会社では、最も影響力を持っている出資者、株主がいますが、ジャフコは独立系で、特定のオーナーのいる会社ではありません。
特定の目的を持ったオーナーがいるVCであれば当然、そのオーナーの目的の影響を受けます。ジャフコは独立系のVCとして、ピュアな成長資金を出資しているといえます。純粋に投資のリターンを求めていくためには独立性が必要です。
――VCというと、スタートアップ期の支援というイメージがありますが、シュレッダー最大手の明光商会が2007年、ジャフコのファンドの支援を受けて経営陣と従業員で自社を買収するということもありました
松本氏:
明光商会については、バイアウト投資という位置づけでした。ジャフコでは1998年に、マジョリティ(議決権の過半数)を保有するバイアウト投資を始めました。今では金額にして国内投資の約3分の1がバイアウト投資になっています。ベンチャー投資の主体がシード・アーリーステージのスタートアップ企業となる中で、キャッシュフローが安定しているバイアウト投資は、ファンド全体のポートフォリオのリスクを分散させる役割を果たしています。
北澤氏:
バイアウト投資のなかには、成長を期待して投資するという発想もあり、逆にベンチャー投資でも、マジョリティを持つことがあります。いずれの場合もどうグロース(成長)させていくのかというノウハウが重要になってきます。先祖代々続いてきたような伝統ある企業は、DX(デジタルトランスフォーメーション)でグロースさせていくことができます。私たちのベンチャーの知見やスキームは、バイアウト投資にも生きるノウハウだと思っています。
――ジャフコは北米のシリコンバレーや中国、台湾、シンガポール、香港に拠点を持ち、グローバルな投資活動を行っています。海外に進出するにあたり苦労した点は
松本氏:
最初に海外に進出したのは、80年代、ファンドを募集するにあたって海外投資家から資金を募る必要があったことがきっかけときいています。1983年に香港、続いて1984年に北米にも拠点を設け、資金集めだけでなく、現地で投資活動も行うようになりました。
現在のアジア、米国のチームは、現地で採用したメンバーで、彼らにファンドの運用を任せています。初期は投資の意思決定を日本で行っていましたが、試行錯誤を重ね、現地のチームに投資の意思決定もファンド運営も思い切って任せる形に行き着きました。ローカリゼーション(現地化)を重視したスタイルは、パフォーマンスを重視するためには独立性が必要という先ほどの考え方ともつながっています。
北澤氏:
海外進出の仕方は2つあります。日本から海外企業に進出するという方法と、ローカルでローカルの人材を集め進出するという方法です。この2つは似ているようで違います。
VCというのはローカルのことをしっかり理解していなければならず、非常に属人的な仕事といえます。海外企業に投資するために、その地域に根付いた組織を作るということで、日本の他のVCにはあまりないジャフコならではの特徴だと自負しています。
スタートアップの「共同創業者」
――老舗のVCとして、出資してきたスタートアップ企業に対する思いをお聞かせください
北澤氏:
日本や各国で新しい産業を作るような会社と成長をしていく、というイメージを抱いています。共同創業者に近い立ち位置として関わっていく思いで、しっかりと支援していくことを意識してきました。
あくまでもスタートアップが主役で、ジャフコは黒子的な立場ではありますが、「スタートアップが成功するために足りないリソースは全部私たちが補うのだ」という発想で、全力でリソースを集めています。それは資金だけにとどまらず、例えば人を集めるということであれば採用であったり、大企業がなかなか受け入れてくれないという事情があるなら、営業のサポートであったり、あらゆる支援です。
未上場の市場規模は2011年は800億円でしたが、2019年には5000億円近くになりました。日本ではまだまだ、VC自体が成長産業だと思っています。VCは今後、どのように進化し、どのような進化を遂げるべきなのか。VCの老舗としてずっと考え続けていかなければならないことだと思っています。
――2008年のリーマンショックを境に、出資先を大幅に減らす代わりに1社あたりの投資額を増やしたようですが、なぜこのような変化があったのでしょう
北澤氏:
なぜ変えたか、ということですが、一つはリスクヘッジです。未上場企業の場合、出資先の会社が「難しいな…」という状態になったとして、上場株のようにその日のうちに株を売却できるかといえば、できません。そこで、私たちが投資先の経営にコミットし、積極的に関わる方がリスクヘッジになるという考え方です。
その転機が、実体経済が大きく、長期にわたって落ち込んだリーマンショックというタイミングでした。少額分散投資では、1社1社に十分な支援が届かず、多くの企業が経済環境の変化に耐えられなくなります。リソースを集中させる方が、わたしたちの価値をより提供できると考え、投資社数を絞り1社あたりの投資額を増やす方向にシフトしたという経緯があります。
――ジャフコが出資したIT企業WACUL、ココナラ、Appier Holdings、ビジョナルの4社が今年に入って相次いでIPOを実現しています。出資先の企業はコロナ禍にあっても堅調のようですね
北澤氏:
私たちが出資した会社が、このタイミングでしっかりIPOに至ったというところに尽きます。実際、スタートアップに投資しているタイミングは、起業から間もない頃ですので今から5、6年前です。結果としてこのタイミングで上場したというのが、表現として正しいかなと思います。なぜこのタイミングのIPOになったのか。コロナ禍で大企業も含めたデジタルの浸透が数年前倒しになったという理由も大きいかと思います。
コロナ禍によって、起こるべくして起こることが促されたという側面があると思っています。例えば、働き方改革もそうです。リモートワークの普及にしても、いずれ起きることだったといえます。それらは、産業変革を目指しているスタートアップにとってターゲットでした。コロナ禍がこうしたスタートアップに対してネガティブに働かなかった理由はそういうことかなと考えます。
VCとしての価値提供を継続
――「ポストコロナ」で求められるVCのあり方も変わってくるのでしょうか
北澤氏:
コロナ禍に直面したとき、ジャフコはどういうことを考えたか。それは、こうした局面でも投資する企業の数や金額を変えず、支援を貫くということです。新しい時代を作るスタートアップへの支援を、コンスタントにやっていくというのが大事だと思っています。(経済環境などが)良い時だけ支援するというのでは、VCというモデルは崩れてしまいます。今後もVCとしての価値の提供をしっかりと継続していきたいと考えています。
投資という観点で言えば、日本の多くの企業がコロナ禍に直面し、長年続けてきたオペレーションというものが耐えられなくなっています。コロナ禍で急遽(きゅうきょ)対応しなければいけないことも増えました。多くの企業が、これまでのオペレーションを変えてDX化しようとしています。
市場環境の大きな変化の中で、また次代を担う大きな会社が出てくるのではないかと思います。コロナ禍で厳しい業界であっても、スタートアップにはチャンスがあります。そのチャンスに対し、私たちが成長の支援をしていくことで、スタートアップが次代を担うリーダーになるよう見届けていきたいと思っています。
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SankeiBiz編集部
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SankeiBiz編集部員
SankeiBiz編集部員が取材・執筆したコンテンツを提供。通勤途中や自宅で、少しまとまった時間に読めて、少し賢くなれる。そんなコンテンツを目指している。