【中小企業へのエール】水素自動車 エネルギー分野でもイノベーションを

2019.5.15 05:50

 日本の企業の強みは、「カイゼン」であるとよく言われる。現場からの改善提案を基に、お客さまのニーズを先取りして現場とすり合わせをし、製品を完成させる。このサイクルで日本企業は大きな成長を収めてきたのは事実だ。家電はより小さくなり機能が追加され、しかも安くなった。1980年代から90年にかけて世界を席巻していった。これをイノベーションだと当時は皆錯覚していた。(旭川大学客員教授・増山壽一)

 しかし、真のイノベーションは全く違うところから生まれた。まさしく米シリコンバレーのガレージから、コンピューターの中の仮想空間が生まれたのだ。米アップルのiPhone(アイフォーン)誕生によって、不要となった家電は恐らく30は下らない。

 私は、現在環境省の特別参与として、先端的な環境エネルギー技術を日本の地域に広げる活動を行っている。その観点から特に注目しているのが水素技術だ。現在、エネルギーの分野でもかつての家電と同じことが起きようとしている。

 人類が火を発見して以降、木材、石炭、石油、天然ガスと、基本的に炭化水素を中心に連続的な発展をしてきた。そして唯一全くの革新的な技術が原子力だ。今話題の再生可能エネルギーは、原点回帰のエネルギーといっていいかもしれない。

 一方、二酸化炭素(CO2)削減も待ったなしの課題だ。現代社会にますます不可欠な電気をどうつくるか、そして貯蔵しづらい電気をどうやって貯蔵して運ぶか、この点に向けての解決がないと、2050年にCO2を80%削減するという世界的な公約は成し遂げられない。その意味で今、水素に注目している。1つの酸素と2つの水素で水ができるわけだが、この生成過程で生まれるエネルギーを電気に変える。水素を液体化し、貯蔵輸送して、空気中の酸素と結合させることでエネルギーを得るこの技術こそがまさしくイノベーションを起こす技術だ。

 実現したその時の世界を想像してみよう。送電線は必要なくなっている。地域に各家庭に液体水素があれば、そこでエネルギーは完結。水素を作るのに再生エネや原子力を使えばCO2はゼロとなる。水素自動車や水素電車、水素船などが大幅に普及すれば、振動も音も少ない、快適な輸送手段が生まれる。

 元号も変わった今だからこそ先を見据えて、その社会から見える努力を少しずつ行うことが企業経営にとっても重要だ。

【プロフィル】増山壽一

 ますやま・としかず 東大法卒。1985年通産省(現・経産省)入省。産業政策、エネルギー政策、通商政策、地域政策などのポストを経て、2012年北海道経産局長。14年中小企業基盤整備機構筆頭理事。旭川大客員教授。京都先端科学大客員教授。日本経済を強くしなやかにする会代表。環境省特別参与。56歳。

閉じる