「ガリガリ君」の急成長と“大失敗”の舞台裏

2017.2.9 14:08

《1981年の発売以来、右肩上がりで販売本数を伸ばし続けてきたアイスキャンディー「ガリガリ君」--。年間販売本数をみると、2006年は約1億本だったが、2012年には4億本を超え、飛躍的に伸びている。どのようにして販売本数を伸ばしたのか。その仕掛けと、あの“大失敗”の裏側を同社のマーケティング部、萩原史雄部長に聞いた。[鈴木亮平,ITmedia]》

 食品メーカー、赤城乳業の看板商品として30年以上も国民から愛され続けているアイスキャンディー「ガリガリ君」--。1981年の発売以来、右肩上がりで販売本数を伸ばし続けてきた。2006年は約1億本だったが、2012年には4億本を超え、飛躍的に伸びている。

 その立役者が、「ガリガリ君 リッチシリーズ」で「コンポタ味」「シチュー味」などの話題性あふれる商品を世に送り出してきた営業本部 マーケティング部の萩原史雄部長である。

 どのようにして販売本数を伸ばしたのか。その仕掛けと、あの“大失敗”の裏側を本人に聞いた。

「ガリガリ君はもっと売れるはず」

 萩原さんが同社に入社したのは1995年。2004年にマーケティング部へ異動するまで、営業部でスーパーやコンビニを担当してきた。萩原さんは営業部にいたときから「ガリガリ君のポテンシャルはこの程度ではない。もっと売り上げを伸ばせるはずだ」と感じていたという。

 「例えばスーパーの店頭でキャンペーン販売をするとき、現場にいると分かるのですが、とにかくお客さんの食い付きがスゴいんですよ。店頭でお客さん同士がガリガリ君の話題で盛り上がっていてね。仕掛け方次第で、売り上げはもっと伸びるだろうと思いました」

 マーケティング部に異動した萩原さんは、より多くのユーザーに周知させるために、商品との接点をより強化することを考えた。さまざまな生活シーンの中から商品を知ってもらうきっかけをつくるため、他社とコラボしたキャンペーンを積極的に打ち出していったのだ。

 例えば、ゲーム会社とはガリガリ君のゲームを開発し、出版社とは漫画の連載をはじめ、玩具メーカーとは「ガチャガチャ」のストラップもつくった。

 他にも、サッカーワールドカップなどの大きなスポーツイベントとタイアップしてスポーツファンを取り込んだり、受験シーズンには塾とコラボした「おみくじ付きアイス」を販売するなど、「絶えず新しいコラボ企画を仕掛けて、とにかく商品との接点を増やすことを意識した」という。

 現在も他社とのコラボ企画に積極的であり、昨年はJR東日本のスキー旅行キャンペーン「JR SKISKI」とガリガリ君の妹、ガリ子ちゃんがコラボして話題を集めた。徹底した接点強化の取り組みが徐々に効果を発揮し、販売本数の増加へとつながったのだ。

社内の反対を押し切った「コンポタ味」

 萩原さんが次に注力したのは「冬場でも食べてもらえる商品の開発」だった。ガリガリ君は氷菓子。売り上げの大半が夏場に集中し、冬は売り上げが伸びないという課題があった。そこで生まれたのが、これまでの価格(当時は60円)にこだわらず、新規性や品質をより重視した「ガリガリ君 リッチシリーズ」(100~130円)である。

 リッチシリーズの第1弾は、かき氷の中に練乳を入れた「ミルクミルク」(2006年発売)。アイスの新商品ランキングでは上位を占め、冬場の売り上げが2.6倍も上がったという。その後も「チョコチョコ」や「バニラバニラ」などの新作を毎年発表しており、現在は3カ月ごとに商品を入れ替えながら通年販売を行っている。

 具体的な販売本数は非公開となっているが、最もヒットした商品は2012年の「コンポタ味」だ。販売から3日で休売するほどの売れ行きで、大きな話題となった。

これまでは当たり障りのない“鉄板フレーバー”で勝負していたが、あるバイヤーから「売れる商品ではあるが、赤城乳業らしい遊び心がない。守りに入らず、新しいことにチャレンジしてほしい」と言われたのをきっかけに「今までにない商品で勝負しよう」と思い立ったという。

 「コンポタージュといえばスナック菓子でよく使われているフレーバー。多くの人にとって慣しみのある味です。だから、アイスでもイケるはずだろうと(笑)。そして、本来は温度の高いコンポタージュを氷菓子として出すというこのギャップがウケるのではないかと考えました」

 しかし、社内では「ふざけているのか」「アイスには合わない」などの反対意見の方が圧倒的に多く、簡単には決まらなかった。それでも必死に訴え続けた結果、最終的には“新たな挑戦”として受け入れられて、社長のゴーサインが出たという。

 結果は見事に大成功。ネット上で話題になり、販売から数日で品薄状態となった。各メディアに大きく取り上げられたことでリッチシリーズの知名度も高まり、その翌年(2013年)に販売した「シチュー味」も前作に匹敵する大ヒットに。ガリガリ君の販売本数を飛躍的に伸ばしていった。

 「話題作りに成功したことで、ユーザーがネット上でどんどん拡散してくれました。その人気ぶりを各メディアも報じてくれましたので、広告費用をほとんどかけずに売ることができましたね」

 しかし、ヒット商品を出し続けることは簡単ではない。勢いに乗って2014年に出した新商品は3億円の赤字を出す大失敗に終わってしまうのだ。そのフレーバーとは……。

なぜ「ナポリタン味」は失敗したのか

 そのフレーバーは「ナポリタン味」である。

 コンポタ味とシチュー味の大成功によって売り上げを大きく伸ばした萩原さん。ネット上で「次回はどんな“面白い商品”がくるのか」と議論が起こり、多くのユーザーが予想を始めた。

 それを知った萩原さんは「次の新商品をユーザーに読まれたくない。“誰も予想できないようなモノ”を企画しよう」と意気込み、ナポリタン味を企画したのだ。しかし、結果は大失敗。面白がって購入するユーザーが一定数いたものの、再度購入したリピーターはほぼゼロだったという。結局、3億円の赤字となってしまったのだ。

 「原因は明白で、ネタ(話題性)に走り過ぎた結果、“マズすぎる”商品にでき上がってしまったからです。アイスとしての親和性は全くありません。私自身も、おいしいとは思えませんでした」

 味よりも話題性にこだわった理由について萩原さんは「コンポタ味やシチュー味のヒットによる前年の“異常な売り上げ”を超えなければならないというプレッシャーがあった」と説明する。

 「ちょっとしたブームを作ったことで、売り上げは一気に伸びました。しかし企業としては前年の実績を超えなければならないという使命もあるので……。どうすれば前年の爆発的ヒット商品に勝つことができるのか。その葛藤の結果、話題性により過ぎてしまったのです」

「遊び心」がチャレンジ精神を生む

 ナポリタン味は大失敗に終わったが、萩原さんは全く落ち込まなかったという。「精神的な立ち直りは早かったですね。会社は失敗を“ネタ”にする風土がありますし、私自身、これまでに数え切れないほどミスを経験してきましたので慣れています」

 萩原さんはマーケティング部に配属された2004年、最初の企画で大失敗を経験している。「チューペット」のようにガリガリ君を液状に近づけて柔らかくした新商品「シャリシャリ君」を企画したものの、会社から罰金を徴収されるほどの大失敗に終わったそうだ。

 そうした経験を積みながら、今日まで変えていなことがある。「遊び心」を失わない姿勢だ。その思いは会社全体を巻き込み、コーポレート・スローガンも「あそびましょ。AKAGI」に変わった(2006年から)。

 「もともと遊び心がある会社だと思っていましたし、それを強みに勝負をしてきました。『失敗しても、どこかで回収してチャラにすればいい』『失敗を次に生かそう』という空気があるからこそ、他がやらないことに思い切ってチャレンジできたのです」

 そう語る萩原さんは昨年10月、2年ぶりにリッチシリーズの新作を発表した。フレーバーは「メロンパン味」。「攻めつつも、きちんとリピーターがつく味」を目指した新作はコンポタ味、シチュー味と同様に好スタートを切ったそうだ。

 「遊び心」を大切にチャレンジし続ける萩原さん。次回はどんな新作を繰り出すのだろうか。

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