【マネジメント新時代】日本企業における危機

2016.5.14 05:00

 □日本電動化研究所代表取締役・和田憲一郎

 ここ1、2年、大手企業の不祥事が続いている。大きな案件だけでも、東洋ゴム工業の免震装置ゴムのデータ改竄(かいざん)問題、東芝の不正会計問題、直近では三菱自動車の燃費データ不正問題がある。特に、三菱自動車はかねて筆者が勤めていたこともあり、身近な問題でもある。個々の要因はいろいろあろうが、その底辺には何か共通項があるように思えてならない。まさに日本企業におけるマネジメントの危機を迎えているのではと危惧する。今回は、これについて考えてみたい。

 ◆3つの要因

 トップマネジメント層である会長、社長、役員と、その実行部隊である部課長クラスとの間に大きなギャップが生じており、これらが問題発生の一つの要因になっているように見受ける。筆者はこれをあえて3つに分類してみた。

 (1)部課長クラスでは、やり直しのきかない世代が増加

 不祥事が発生するケースをみてみると、トップマネジメント層である会長、社長などからの指示に対して、極めて従順な管理者が実行してしまった事例が多いように思える。なぜ、そのような無理難題に従ってしまうのだろうか。

 少子高齢化も一つの要因であろう。以前の高度成長期から低成長、もしくはマイナス成長になるに従い、必然的に部課長に昇進する年齢も上がってきている。結果的に、挑戦し難い、やり直しがきかない世代が部課長となり、上層部に対する提言や直言をためらうことが多くなっているのではないだろうか。それを見た配下は、これでは何を言っても駄目だということとなり、指示を受け入れてしまうこととなる。

 (2)実体を理解しないトップマネジメントが増加

 一方、逆説的であるが、会長、社長は、部課長が従順であればあるほど、どちらかと言えば横暴になりがちであろう。たとえ最初はそのような人でなくても、長く権力の座にあれば次第に人格が変化することは考えられる。

 さらに、トップマネジメントが企業の実態を把握していればまだ良いが、それを理解しないまま、利益重視、シェア重視、技術トップに立てなどと勇ましいことを言うケースはないであろうか。よく仄聞(そくぶん)するのは、新しいものを開発するとき、開発人員や開発費用など自社の体力を把握しないまま、強気で指示を出すケースであろう。

 (3)抽象的なコミュニケーションが発生

 このような状況になると、トップマネジメントと部課長クラスの間で、コミュニケーションが具体的でなく、抽象的になる傾向がある。例えば「なんとかしろ!」「どうにかしろ!」などである。

 これはある意味、指示かもしれないが、実行部隊からすれば問題解決ではなく、責任転嫁をして逃げているに等しくなる。その結果、問題があるにもかかわらず、とりあえず検討する、先送りする、最悪の場合、不正を行うこととなる。

 ◆リーダー選任が大切

 不正が発生するのは、企業文化のせいであると言われるが、必ずしもそうとは言い切れない。トップマネジメントは、現在の役員、部長クラスから次第に選任されることを考えると、次にどのような人をマネジメントとして昇進させていくかは次世代の鍵を握る。

 リーダーシップ論で有名なJ.P.コッターは『ビジネス・リーダー論』の中で、有能なゼネラル・マネジャー15人の行動を徹底的に調査し、次のように説いている。

 状況が不確実な中で、基本目標、方針、戦略を設定する。その際に、各事業分野への不足がちな資源の配分に際してうまくバランスを図る。また、適宜問題に対処できるよう、大規模かつ複雑な諸問題を把握する。

 そして、有能なマネジャーの一般的な時間の使い方は、配下、同僚、上司、社外の人々と数多く接触し、多くの質問をすることに時間を当てていると。

 少子高齢化は今から変えることはできないが、企業文化はこれから変化することも可能であろう。つまり、企業は人間が作るのであり、仕事に対する熱意や真摯(しんし)さ、対人関係、複雑な要求に適応できる能力などを考慮し、それに適した人々をトップマネジメントとして選任していくことが、今後ますます求められるのではないだろうか。

                   ◇

【プロフィル】和田憲一郎

 わだ・けんいちろう 新潟大工卒。1989年三菱自動車入社。主に内装設計を担当し、2005年に新世代電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」プロジェクトマネージャーなどを歴任。13年3月退社。その後、15年6月に日本電動化研究所を設立し、現職。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。59歳。福井県出身。

閉じる