2016.3.20 17:11
【経済裏読み】
カップ容器入りインスタントうどんの代表格「どん兵衛」。今年で誕生40年になる。熱湯をかけ5分待つのが食べ方の常識だったが、いま「10分待ち」の裏技が評判になっている。
「10分どん兵衛」の味を愛するタレント、マキタスポーツ氏がラジオ番組でこの方法を紹介したところ、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で拡散。試す人が相次ぎ、日本中に広まっているのだ。「熱湯5分」にこだわってきたメーカーの日清食品は、「世の中の多様性を見抜けなかった…」とついに「おわび」文書をホームページに掲載。「10分どん兵衛」はなぜ、ここまで盛り上がったのか。
ダシが「よー、しゅんでる」10分待ち
「最近、10分どん兵衛にハマッている」
こんな書き出しのリポートを3月に出したのは、流通経済研究所の鈴木雄高主任研究員。「半信半疑だったが、予想に反した美味しさに驚き、以来、この方法で食している」と大絶賛だ。
どんな味なのか。まだ試したことのなかった「経済裏読み」は「10分どん兵衛(きつね)」に挑戦した。
熱湯を注ぎ、待つこと10分。フタをちぎる。定番の「5分どん兵衛」に比べて、待ち時間が2倍になっているだけに、油揚げは厚くふくれあがった感じで、見た目にもジューシー。軟らかめの麺は箸でゆっくりとすくう。「ぼってり油揚げ」と「にゅるにゅる麺」にスープが十分にしみて、コクが増しているよう。ややぬるめなので、猫舌には歓迎だ。油揚げをいきなりカブリとかみ切らず、まずは「ちゅうちゅうとダシを吸い取ってから、ちょっとずつ食べる派」には画期的な発見。確かにうまい。
ただ、かたい麺のコシにこだわる人は、物足りなさを感じるかもしれない。そもそも「時間がないから、カップ麺を食うのに10分も待てるか!」という異論もありそうだ。
世の中、見抜けず…日清食品の反省
「10分どん兵衛」の火付け役は、お笑いや音楽などのジャンルで活躍するタレント、マキタスポーツ氏だ。自身が出演するTBSラジオの番組で紹介、ブログでも発信したことで昨年11月以降、SNSで大きな反響を呼んだ。
この話題に食いついたのが「どん兵衛」の製造・販売元の日清食品だった。
「10分どん兵衛」を知らなかったことについて同社は12月、「おわび」文書をホームページに掲載した。
「5分でお客様においしさを届けるということに縛られすぎていて、世の中の多様性を見抜けていなかったことを深く反省しています」と〝懺悔〟。マキタスポーツ氏と「どん兵衛」担当者の緊急対談を企画し、どん兵衛に対する真剣な思いをぶつけ会う様子をホームページで公開した。
ネット上では、食べ方への賛否両論だけでなく、「20分待ち」「30分待ち」とさらに時間を延ばして試す人や、どん兵衛のライバル「赤いきつね」(東洋水産)など、ほかのカップ麺に応用する人も現れ、次々と派生していった。
「10分どん兵衛」のブームはなぜ、起きたのか。
流通経済研究所の鈴木氏は、この現象をマーケティングの専門的な視点で読み解いた。
格好のネタ、SNSで拡散
鈴木氏は、キーワードとして(1)コミュニケーション消費(2)エクストリーム・ユーザー(3)デジタルマーケティング|の3つを挙げた。
「コミュケーション消費」とは、おもしろい話題を見つけては、スマホなどを使って流して、SNS上などで「あーでもない、こーでもない」とコミュニケーションの広がりそのものを楽しむ行為だ。
まさに「10分どん兵衛」はその格好のネタだった。
鈴木氏は、▽どん兵衛の高い認知度▽非常識な食べ方▽誰でも試せる▽自分なりの工夫をしたくなる▽コメントしやすい|といった要素が相乗効果を生んで、どん兵衛のコミュニケーション消費を活発にしたとみている。
「エクストリーム・ユーザー」は、変わった特性を持った消費者を指す。今回は、マキタスポーツ氏がその存在だ。商品開発のヒントになるものの、通常では発見困難な意見が、SNSを通じて、日清食品が知るところとなった。
「どん兵衛」不惑の40歳で
最後にデジタル・マーケティング。日清食品はホームページ上で「おわび」という〝謝罪〟ページを作ることで、ネットのアイデアを大企業が受け入れるというニュースを新たなに提供。SNSの「熱しやすいが、冷めやすい」という弱点をメーカーがカバーした形だ。
日清食品によると「10分どん兵衛が話題になったことにより、実際に試される方が多く、特にうどんの売上は伸びた。昨年からWebプロモーションを強化しており、どん兵衛ブランドの関心が高まっている」(日清食品ホールディングスの広報担当者)という。
「10分どん兵衛」のようにネットでは日々、さまざまな商品が話題に挙がる。しかし、鈴木氏は企業はこの情報をまだ十分に生かせてないと指摘する。「デジタルマーケティングで得た消費者の声などの情報を、営業部門など企業内で共有している例が少ないため」とみている。
「どん兵衛」は誕生から今年で不惑の40歳。「熱湯5分が最もおいしい」と信じられたロングヒット商品の常識は、SNSの威力に崩れた?