【マネジメント新時代】文化・習慣…アジア系の価値観を大切に

2016.3.5 05:00

 □日本電動化研究所 代表取締役・和田憲一郎

 朝夕の出勤時に、歩いてすれ違う人々の顔ぶれがここ2、3年変わってきているように感じる。中国系や韓国系、ベトナム系、タイ系など、行き交う人の3、4割がアジア系外国人であることも多い。相対的に欧米人の顔を見ることも少なくなってきた。地域によっては、もっとアジア系外国人の比率が高いところもあるかもしれない。

 彼らはインバウンドの観光客ではなく、日本に住んでいるアジア系外国人である。いつからこうなったのであろうか。今回は、このようにアジアの方々が数多く日本に住むようになったことで、マネジメントがどう変わるのかを考えてみたい。

 ◆太陰暦と太陽暦

 最近、中国の方から質問されて言葉に詰まったことがある。「なぜ日本では春節を祝わないのですか」と。

 少し考えて、「日本ではお正月といえば1月1日と決まっているし、もはや旧暦の春節を祝う習慣はないよ」と答えた。でも、その後ふと疑問に思って、いつからそうなったのであろうかと調べてみると、意外なことに驚かされた。

 日本では古代より太陰暦、つまり月の満ち欠けの周期を基にした暦法を用いていた。これが長い間続いていたのであるが、明治政府は1872(明治5)年に、太陽暦、地球が太陽を周回する周期を基にした暦法に変更することを公布した。

 背景としては、明治政府が西洋文化を導入していた時期にあたり、暦も西洋で使用されていた太陽暦に合わせたのである。その実施にあたっては、同年12月2日の翌日を73(明治6)年1月1日に制定した。つまり、この年は約1カ月が消滅したことになる。

 そう考えてみると、太陽暦(正確には太陽暦の中のグレゴリオ暦)を採用してから、まだ143年しか経っていないことになる。

 遣隋使、遣唐使の時代から、漢字とともに多くの文化が中国から日本に伝わってきた。太陰暦もその一つであろう。その後長く太陰暦が採用され、江戸時代には一部修正された寛政暦・天保暦(太陰太陽暦)なども採用されるものの、基本は太陰暦であった。

 その意味で、中国の人が「春節をなぜ祝わないのですか」と問うことも分からないわけではない。現に、太陰暦のお正月を祝う国は多く、中国、台湾、韓国、ベトナムなど東アジアの国・地域では、年に一度のビッグイベントとなっている。

 東アジアの国・地域も、正式な暦としては太陽暦のグレゴリオ暦を採用しているが、習慣などでは、依然として太陰暦のことを尊び、春節などのイベントは現存している。

 ◆出勤、休日など配慮

 これは一例であろうが、職場でアジアの人たちが多くなり、その比率が増えてくると、欧米的な考え方のみならず、アジアの人たちの文化・習慣を理解し、出勤日や人事においても、彼らの考え方を考慮して進める、いわゆるアジアン・マネジメント力が必要になるのではないだろうか。

 これは必ずしもアジアに限定すべきではないが、地政学的、歴史的に近いだけにより配慮が求められる。その際に留意すべき点は以下であろう。

 ・アジア系の人たちに根付いた文化、習慣を理解し、その価値観を大切にする。

 ・出勤日、休日などは出身国の事情に配慮していく。

 ・アジア系の祖国とは、地政学的に近く、歴史的にも古い関係だけに、政治的な動きにより変動が起こりやすい。これらに対してもセンシティブな対応が求められる。

 ・昇進や昇格などの人事においては、判断基準の明確化が求められる。

 今後、日本においても、一つの企業の中で、日本人、中国人、韓国人、ベトナム人、タイ人などが混在する多国籍会社も多くなってくるであろう。そして、多国籍のアジアン・マネジメント力を活用できる企業が、各国の情報やニーズを迅速につかみ、今後大きく成長していくのではないだろうか。

 昨今はインバウンドの観光客に焦点を当てているが、日本で働く外国人の増加に対応したマネジメント力を身に付けていかないと、次第に後れをとり、取り残されてしまう。そんな時代がすぐそこに来ていると思われる。

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【プロフィル】和田憲一郎

 わだ・けんいちろう 新潟大工卒。1989年三菱自動車入社。主に内装設計を担当し、2005年に新世代電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」プロジェクトマネージャーなどを歴任。13年3月退社。その後、15年6月に日本電動化研究所を設立し、現職。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。59歳。福井県出身。

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