【マネジメント新時代】毎年起こる「100年に1度」

2015.10.3 05:00

 □日本電動化研究所代表取締役・和田憲一郎

 今年も地球温暖化の影響なのであろうか、毎週のように台風が来る。それに伴い、ゲリラ豪雨が発生し、50年に1度、100年に1度と呼ばれるような洪水があちこちで起こっている。このシーンをテレビで見るたびに、洪水の中を水しぶきを上げて自動車が走り、時には排気系に水が入り、動けなくなってしまったりしている。これは、日本のみならず、中国、東南アジアでよく見る光景であるが、今回、これについて考えてみたい。

 ◆異常の基準を変えるべきだ

 自動車メーカーでは、開発・設計する際に、どの水深まで走行可能とするか、異常事態に対して社内基準を定めている。セダン系のクルマであれば30センチ前後、軽自動車であればもう少し低くて25センチ前後、SUV系となるとサイズにもよるが40~50センチが多いのではないだろうか。そして、これは法規ではなく、自主基準、つまり社内基準となっている。その後、「冠水路試験」と呼ばれるが、実際に所定の深さに水を満たし、走行可能か試験を実施している。

 私もこれまで、これは異常事態での試験と考えていたが、これほど頻繁に洪水が起こるようになると、果たして異常事態だろうかと考えてしまう。つまり、異常というより、ときどき起こる常態ではないかと。正常状態と異常状態を区別して設計していたが、「ときどき起こる、常態に近い要件」として設計条件を再定義づけする必要があるように思えてしまう。

 冠水の現象としては、ガソリン車であれば、マフラー排気口から水が入ってしまうと、エンジンが停止し動かなくなってしまう。電気自動車であれば、電池パック内に水が入ると、ショートしたり、漏電検知などが作動し作動不能となる。

 ではどこまで改良すればよいかと問われると、データによる裏付けはないが、最近、セダンで冠水を走った経験から、クルマとして少なくとも40センチ以上は欲しいように思える。これまでの実力に対し、プラス10センチの余裕を持つことで、かなりの台数が水害から救えるのではないだろうか。

 しかし、この設計要件を変えることはかなりの変更を要する。ガソリン車であれば、吸気口や排気口の位置を変更しなければならない。また、電気自動車の場合だと、電池パックの位置を大幅に上げることは難しいので、水が入ってこないように電池パックを防水構造とするとともに、シュノーケルのように特殊な構造が求められるのかもしれない。

 いずれにしても、セダン系は厳しいので、もう少し余裕があるほうが現実に合っているように思われる。

 ◆現実を見ることの大切さ

 このように考えてみると、以前は異常状態であると考えていたものが、現在ではそうとは言い切れないものも出てくる。ゲリラ豪雨、竜巻、停電、最高気温など、これまでとは想定外に過去の例を更新しているように思える。

 例えば、2015年の最高気温は39.9度であり、クルマの仕様でいえば日本向けというより亜熱帯向け、もしくは砂漠なども含まれる中東向けも必要ではと思ってしまう。

 さらに、最近では石油のサービスステーション(以下SS)の廃業が続いている。資源エネルギー庁では「SS過疎市町村数」として取りまとめているが、それによれば14年度末で、SSが3カ所以下しかない地域が283市町村もあり、毎年増加している。まさにSSに行くのに10キロも20キロも走らなければならない「ガソリン難民」が増加していることを示している。

 これなど、果たしてガソリンタンクの容量もこれまでの基準で良いのであろうかと懸念してしまう。つまり、大切なことは、各種基準やガイドラインを踏襲するのではなく、年々状況が変わっていることを踏まえ、一過性のものか、今後も繰り返し発生するものかを考え、未来も続くのではれば、それにいち早く対応することが必要ではなかろうか。

 マーケティングが重要との声を聞くが、顧客の声のみならず、環境変化の声を聞いて、それを商品開発に生かすことも求められているように思える。

                  ◇

【プロフィル】和田憲一郎

 わだ・けんいちろう 新潟大工卒。1989年三菱自動車入社。主に内装設計を担当し、2005年に新世代電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」プロジェクトマネージャーなどを歴任。13年3月退社。その後、15年6月に日本電動化研究所を設立し、現職。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。59歳。福井県出身。

閉じる