【視点】日本製ドローン開発に本腰を 市販機はほぼ外国製…改造チェックは困難

2015.4.28 06:23

 ■産経新聞編集委員・芳賀由明

 ハチがブーンと飛んでる様子に似ていることから英語の雄バチの意味の「ドローン」と呼ばれるマルチコプター型飛行物体が、何やら騒々しい。とりわけ、首相官邸の屋上に不時着して以来、政府も慌てて法的措置の検討に入り、メディアも一斉に規制と活用のバランス論を説き始めた。

 米ホワイトハウスの敷地にドローンが墜落したのは今年1月。その時からドローンによるテロ活動の脅威が浮上していたはずだが、日本はいかにものんびりしていた。官邸は警備を怠っていなかったというが、“ホワイトハウス事件”の直後に、ドローンによるテロを想定した万全の対策をなぜ取らなかったのか。いつ飛来したかも特定できないまま、たまたま屋上に上った警備員が発見した、では脳天気のそしりを免れまい。危機管理の司令塔であるはずの首相官邸がテロに無防備だった事態はまさに「日本として恥ずかしい」(二階俊博自民党総務会長)。意図的に飛来するとすれば、夜間を狙うのは当然だし、赤外線テレビカメラでも、場合によっては小出力レーダーでも、装備すべきではなかったか。

 遅きに失したとはいえ、政府や関係官庁は一定の規制をかけようと検討を始めた。操縦の免許制や購入者の登録制、目視範囲の飛行に制限など米国で検討されている規制を参考に今国会で制度化する見通しだ。

 一方で、農業や建造物検査、災害対策などさまざまな分野での活用拡大も課題といえる。高市早苗総務相は24日の閣議後会見で「ドローンは適正に利用する限りは経済社会への寄与が期待できる。災害現場の情報把握に役立つし、老朽化インフラのチェックにも役立つ。農作物の生育をチェックする場合にも役立つ」と経済産業に大きな効果がある点に言及した。

 しかし、最も気になる問題は、市販されているドローンがほぼすべて外国製であり、日本製ドローンは見当たらないことだ。大げさな言い方をすれば、日本の制空権は中国製や欧米製のドローンに握られている状態だ。電波で遠隔操縦し、電波で写真や動画を送信する、いわば“空飛ぶスマートフォン”といえるドローンだが、スマホの世界と同様、中国製が急速に勢力を伸ばしているようだ。

 官邸屋上に不時着したのは中国の大手ドローン製造ベンチャー、DJIの人気機種「ファントム」だった。価格帯は数万~20万円程度で6モデルあり、世界では100万台以上、日本でも5万台は売れているという。カメラや衛星利用測位システム(GPS)、公衆無線LAN「Wi-Fi」にも対応できる。1キロ以上離れて目視できない状況でも遠隔操縦できるため、輸送手段にも活用が広がっている。

 DJIは、政府の要請に従って、首相官邸や皇居周辺の半径1キロ以内を飛行禁止するようプログラムを変更する方針だ。販売済みの機種は利用者にプログラムの変更を求めたり、無線でブログラムを更新できたりする機種もあるという。

 しかし、問題は意図的な改造も可能だということだ。総務省によると、改造ドローンの販売者は少なくないという。プログラムの書き換えはもとより、モーターの強化、電波の高出力化、バッテリーの大容量化などドローンの改造は比較的容易に行えるようだ。

 さらに、インターネット通販で購入したドローンも数多い。「市場に出回っている機種は検査することもできるが、ネット通販で購入する外国製ドローンはチェックしきれない」(電波政策課)状態だという。

 4つのプロペラでバランスを取りながら飛行するため、従来型の無人ヘリコプターなどに比べて格段に操作しやすくなったドローン。間違いなく、用途は拡大し、有望な成長産業となりそうだ。しかし、日本では一部の大学や企業で研究開発が進んでいるだけで、いわゆるドローン製造会社はまだ台頭していない。

 総務省はドローン向けにWi-Fiに近い周波数帯を拡張して、Wi-Fi関連部品などがドローン開発に使える環境を整える方針だ。スマホでは旗色の悪い日本の電機メーカーだが、“空飛ぶスマホ”作りに本腰を入れる時期ではないか。

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