「社会的責任」が労使動かす ベア高水準、脱デフレへ政権に“解答”

2014.3.13 06:26

 2014年春闘は12日、主要企業の集中回答日を迎えた。政府が賃上げを強く迫ったことを踏まえ、ベースアップ(ベア)に相当する賃金改善は高水準の妥結が相次いだ。一時金はトヨタ自動車やホンダ、日産自動車などが労働組合の要求に満額回答した。連合によると43労組が同日の回答を引き出し、ベアの平均額は01年以降で最高額の1950円。消費税率引き上げを控え、大企業の賃上げがどこまで中小・零細企業に波及し、デフレ脱却や経済の好循環につながるかが今後の焦点となる。

 春闘相場への影響力が大きいトヨタのベアは月額2700円、日立製作所やパナソニックなど電機大手6社は2000円で決着。いずれも6年ぶりのベア実施で、現行の要求方式になった1998年以降で最高額となった。東芝は大卒、高卒の初任給をそれぞれ1500円、1000円引き上げることも決めた。「ゼロ回答」の方向だったダイハツ工業は組合員平均で800円、スズキは若手社員限定で800円で決着した。

 一方、三菱重工業や新日鉄住金など造船・重機、鉄鋼大手は2年分2000円で妥結した。

 トヨタ、2700円の意味

 今春闘は「社会的責任」が労使双方を突き動かすキーワードだった。ベア復活の舞台裏には、国際競争力の維持をにらみつつ、安倍晋三政権から課せられた社会的責任の「模範解答」を探る苦肉の交渉劇があった。

 14年3月期に2兆4000億円の営業利益を見込むトヨタ自動車の労使交渉は例年以上に重責を担った。日産自動車がベアの満額回答を決める一方、15年4月から軽自動車の税負担が増すことから、軽大手のスズキは鈴木修会長兼社長が「賃上げなど考える暇もない」としていた。

 そうした中、トヨタが示したベア2700円は4000円の要求額を下回り、日産よりも低い。さらに連合が求めた「1%以上」にも満たない。しかし、この数字には大きな意味がある。満額に近い水準で着地すれば他業界が追随できず、グループの下請け企業が置き去りになる恐れもある。一方で他業界に見劣りすれば「内部留保をため込み、相場を引き下げているとの批判を受けかねない」(業界関係者)。ベアと定期昇給分7300円の合計額は21年ぶりに1万円に乗る。「ギリギリの着地点」(トヨタの宮崎直樹専務役員)だった。

 自動車業界の交渉が難航する中、今春闘の相場を引っ張ったのは電機業界だった。大手6社は現行の要求方式の下で最高額となる2000円のベアを回答。鉄鋼や造船・重機などベアに慎重だった他業界の背中を押した。

 「非協力的」に反発も

 経営再建中のシャープやパイオニアの労組が統一闘争から離脱する中、日立や三菱電機など業績好調の総合電機がベアに前向きだった一方、構造改革中の富士通やNECなどは高額回答に消極的だった。大手の幹部は「足並みをそろえるにしても1500円が限度」と漏らした。それでも「日本経済がいい方向に行くよう貢献したい」(日立の御手洗尚樹執行役常務)との思いが高額妥結の原動力となった。

 製造業の賃上げは非製造業にも波及。「餃子の王将」を展開する王将フードサービスは12日、一律1万円のベアを含む計1万7008円の賃上げを発表した。

 ただ、経営側からは「賃上げは企業活動で決まるもの」(電機大手首脳)、「政府に非協力的と言われるのは筋違い」(自動車大手幹部)と、安倍政権の姿勢に反発する声も聞かれる。

 来年以降も賃上げの流れを持続させるという難しい宿題を背負った日本企業は、ベア実施に伴う「相当高いコスト増」(経営幹部)と向き合い、厳しいグローバル競争に挑む。

閉じる