国内石油化学、シェールガス革命を逆手に 新技術で生き残り図る

2014.1.10 06:06

 国内の石油化学業界に回復の兆しが見えてきた。大規模な設備増強を進める中東や中国などとの価格競争で2012年度は大幅な減益となったのに対し、今年度は円安効果に加え、増産が続く自動車やタブレット端末の部材である高機能化学品の需要が拡大。さらに過剰設備の再編が進むことで、需給の改善に一定のめどがつきそうだ。だが、主要輸出先の中国での採算悪化や、米国の「シェールガス革命」に伴い生産される安価なエチレン原料の流入にどう対応するかなど課題は山積している。

 「かなり回復の兆しが出てきた一年だった。薄日が遠くに見えてきた感じだ」

 石油化学工業協会の小林喜光会長(三菱ケミカルホールディングス社長)は昨年の状況をこう総括した。

 石化製品の基礎原料であるエチレン生産設備の昨年10月の稼働率が87%と昨年の最高値となったこともあり、小林会長は「今年1~3月には採算ラインの90%に戻るだろう」と強調。11年9月以降、25カ月連続で90%を下回った稼働率の下げ止まりに期待を寄せた。

 「さらなる再編必要」

 ただ、主要輸出先である中国経済が減速するなか、基礎化学品を中心に設備増強が相次ぎ、供給過剰は解消していない。価格競争による利益圧迫が続き、三菱ケミカルホールディングス(HD)は基礎化学品部門の14年3月期の営業損益予想を期初の黒字予想から一転、赤字予想に修正した。三井化学や宇部興産なども基礎化学系の採算が悪化する見通しで、「本格的な回復(時期)は不透明」(小林会長)というのが実情だ。

 11年は欧州債務危機で需要が減退し、12年は超円高を受けて汎用(はんよう)樹脂の輸入が急増し需給が軟化した。さらにはシェールガス革命により、国内で主流のナフサ(粗製ガソリン)よりも安い化学製品原料が流入するとの懸念が重なり、国内の石油化学業界はエチレンプラントの整理を一気に加速した。

 三菱化学が14年に鹿島のエチレン設備1基、住友化学が15年に千葉の設備、旭化成が16年に三菱ケミカルHDと共同運営する岡山の設備をそれぞれ停止することを決め、設備廃止の準備に入った。

 一連の設備縮小により、国内のエチレン生産能力は15年半ばに12年の年産約720万トンから650万トンまで縮小する見通しだ。それでも、国内の年間需要(500万トン)を上回っており、シェールガス革命による米国で低価格のエチレン生産が本格化する17年ごろには輸出が大幅に減少する懸念もある。

 「内需が急拡大するわけでもなく、再び円高になる可能性もある。中長期で見れば、もう一段の再編をしなくてはいけないだろう」(住友化学の十倉雅和社長)との見方もある。

 安価な原料に対抗

 基礎化学品の市況回復が困難な状況で、国内各社が力を入れるのが、新たな技術開発や高機能素材など付加価値が高く、将来の成長が期待される分野だ。野村証券の岡嵜茂樹アナリストは「中長期的に柱となる新しい技術や材料の開発の重要度が増している」と指摘する。

 例えば、シェールガスからは作れないブタジエンの将来の供給不足を予想し、国内各社はすでに別の原料からブタジエンを作る新製法を開発。三菱化学や旭化成、昭和電工などが新製法による増産を計画するなど、シェールガス革命を逆手にとった技術で新たな収益源の確保に動き出している。

 石油化学産業が革命期を迎えている今、新たな技術開発の成否が生き残りの鍵となりそうだ。(西村利也)

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