19日閣議決定された追加経済対策は、ようやく持ち直し始めた日本経済が再び成長軌道に乗るための牽引(けんいん)役が期待される。政府は新型コロナウイルス禍で打撃を受けた個人や事業者の支援に取り組みつつ、成長戦略を起動させ回復を確かなものにする考え。ただ、財政支出を膨らませた各種の給付金は消費喚起の効果が薄く、景気浮揚は過去最大の規模には見合わない限定的なものになる恐れがある。
追加経済対策ではコロナ禍で困窮する個人や事業者に早く支援を届ける即効性の政策を優先し、足元の経済を下支えする。その後は成長戦略で経済のパイを増やし、政権の重要課題である「成長と分配の好循環」につなげる流れを描く。対策による実質国内総生産(GDP)の押し上げ効果は5・6%程度と見込む。
目玉となった18歳以下への10万円給付は、児童手当の仕組みを使い年内にも5万円を先行配布する考え。親の所得制限を設けたが子育て世帯の約9割が対象になり、生活費に困らない人にも配られる。昨年の国民一律10万円の特別定額給付金は7割程度が貯蓄に回ったとされ、消費刺激の観点では費用対効果が小さい。
成長戦略では、科学技術立国を実現する「10兆円規模の大学ファンド」など、複数年度で資金を拠出する「基金」の活用に重点を置いた。財政政策が硬直化する「単年度主義の弊害」を打破したい首相の意向を踏まえたものだが、政府の基金は投資先の選定や運用実績のチェックが甘くなりがちで、想定した成果が上がらないことも少なくない。
コロナ禍の長期化で足元の景気は弱い。7~9月期の実質GDPは、夏場の感染「第5波」と緊急事態宣言で前期比年率3・0%減のマイナス成長だった。ただ、ワクチン普及で既に最悪期は脱し、SMBC日興証券の試算では行動制限で家計がためた「過剰貯蓄」は41兆円にも上る。直接お金をばらまかなくても、賢い政策で刺激すれば「リベンジ消費」が期待できたはずだ。
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、今回の経済対策は効果が不明瞭な政策が多い上、巨額の支出による財政悪化が将来の増税につながることで日本経済の成長期待も低下させ、「見かけ以上の大きなコストがかかっている」と指摘。政府が思い描く景気浮揚効果は実現しないと分析する。(永田岳彦)