「餃子激戦区」として知られる京都で、冷凍餃子を販売する24時間営業の無人店舗「祇園餃子」が登場し、わずか3カ月で6店舗に拡大した。現金を箱に入れ、冷凍庫から取り出して持ち帰るだけという手軽さや、子供にも食べやすい味付けが人気の理由だ。新型コロナウイルス禍で、人との接触を避けられる販売方法としてもメリットがあることから、無人店舗での餃子販売は各地でも増加。業界は熱気にあふれている。
店内には冷凍庫のみ
四条烏丸などの市中心部から南に約3キロ離れた京都市下京区西七条掛越町。住宅街近くの一角に、ガラス張りのこぢんまりとした店舗がある。「冷凍生餃子」「24時間無人販売所」-。オープンしたての店頭に書かれたひときわ大きな文字に、足を止める通行人の姿が絶えない。
「無人販売」の名の通り、店内にあるのは餃子を保管している冷凍庫だけ。36個入りの1パック(千円)から購入できるが、支払いは店内に設置された料金箱に現金を入れる方法のみで、電子決済はない。当然ながら釣りも出ないため、支払いには注意が必要だ。
4人家族のために1パックを買った京都市中京区の会社員男性(26)は「キャッシュレス決済があればもっと良い」と笑いつつ、「手軽に買えてストックもしやすい。今日の晩ご飯はこれ」と声をはずませた。3人家族という同市下京区の看護師の女性(53)も「値段の割に個数が多い上に、意外と大きい」と満足げだった。
3カ月で6店舗に
経営するのは、クリーニング店やコインランドリーを展開する福田晃正さん(59)だ。コインランドリーのように無人で24時間営業できる営業形態に「こんなに面白いものはない」と魅力を感じ、新たな分野への進出を模索。自身が無類の餃子好きだったこともあり、たどり着いたのが冷凍餃子の販売だった。
ファミリー層が多い地域を中心に出店。小さな子供が食べやすいよう、ニンニクの量は控えめにしつつ、あんの大きさともっちりした皮にこだわっているという。店内では、パンチの効いた味付けにしたい人向けにラー油ベースの特製だれ(200円)も販売。手軽に購入できる利便性からも人気を集め、8月の事業開始から11月までのわずか3カ月で計6店舗を相次いで出店した。
福田さんによると、コロナ禍の緊急事態宣言中も順調な売り上げで「接触による感染リスクが低いことも消費者にとって安心感につながったのでは」と説明。来春までに計10店舗とさらなる展開を検討しており、「サイドメニューとして扱われがちな餃子を食卓のセンターに持っていきたい」と鼻息は荒い。
ブームは続く
餃子の無人販売所は京都以外でも広がりをみせている。群馬県で昭和15年に創業した中華料理店をルーツに持つ「餃子の雪松」は、一昨年7月から無人店舗での販売を始めた。
中華料理店は県外からの利用客や著名人も足を運ぶほど人気だったが、後継者不足の問題に直面。特にファンの多い餃子を継承しようと、新たな形での事業に取り組んだ。運営会社の担当者によると、コロナ禍でも販売量は好調で、今では関東や関西を中心に270店舗以上を展開する。
関西では、主に大阪府内でラーメン店を出店する「大阪ふくちぁん」も2月以降、餃子の無人販売店を大阪や兵庫で出店し始めた。
餃子の無人販売店が増えている理由は何か。餃子の生産や流通などに精通する「焼き餃子協会」(東京)の小野寺力代表理事は「餃子はお酒のあてや、ホームパーティーの食材として需要があり、コロナ禍の出控え傾向にハマったのでは」と分析する。また、生産や人件費に絡むコストが低いため、別業界から新たに参入しやすい利点もあり、「こうした流れは今後も続く可能性がある」とも指摘。ブームはさらに熱を帯びていきそうだ。(森西勇太)