メーカー

ビール離れの若者大ウケ…コカ・コーラが初のお酒「檸檬堂」をヒットさせた戦略 (2/2ページ)

 第2弾はあまり飲まない人へ「レモネードのお酒」

 今年6月21日から第2弾として「ノメルズ ハードレモネード」というブランドで3種類の商品を全国発売した。ハードレモネードとはレモネードにアルコールを加えたもので、米国では人気だという。こちらもレモン果汁+アルコールという商品設計だ。

 「米国西海岸では住宅街の家の外で、子どもがレモネードを1杯=1ドルや50セントで売るなど、カルチャーとしてなじんでいます。ハードレモネードの『ノメルズ』はそんな文化も感じられるよう、パッケージにはフードトラックがデザインされています」

 果汁とアルコール濃度は商品によって異なり「ノメルズ ハードレモネード オリジナル」(アルコール分5%、果汁20%)、「ノメルズ ハードレモネード サワー! サワー! サワー!」(同5%、14%)、「ノメルズ ハードレモネード ビターサワー」(同7%、8%)となっている。低アルコールだが、微アルではない。

 実際に買って飲むと(当たり前だが)レモネードの風味がしっかり感じられた。パッケージは、日本で最初の“西海岸ブーム”が起きた1970年代後半の世界観だった。

 「アルコールは好きだけど、普段はあまり飲まない、あるいは1杯だけ飲むような人。そうしたお酒初心者にも訴求しています」

 欧米には「ソバーキュリアス」(Sober Curious)という層がいる。飲めるけど飲まない(少ししか飲まない)という生き方だ。日本でも若者を中心に受け入れられている。

 世界20カ国超で販売するブランドが日本にも

 ここまでは「レモン系」だが、第3弾ではフレーバーの味を広げた。9月20日から関西の2府2県(大阪府・京都府・兵庫県・奈良県)で限定販売している「トポチコ ハードセルツァー」だ。味は「アサイーグレープ」「タンジーレモンライム」「パイナップルツイスト」の3タイプ。いずれもアルコール分5%、果汁0%という炭酸水のアルコール飲料だ。

 舌をかみそうなブランド名だが、アルコールが入っていることを意味する「ハード」に、炭酸水を指す「セルツァー」を組み合わせた造語だ。こちらの訴求相手はそれなりに飲める層。世界20カ国以上で販売する同ブランドは、日本での発売は22カ国目になるという。

 第1弾「檸檬堂」が日本製なのに対し、第2弾と第3弾は舶来品だ。パッケージはかなり異なるが、(1)レモンサワー、(2)ハードレモネード、(3)ハード炭酸水という、清涼飲料メーカーらしいブランド展開となっている。

 「最初のアルコール販売」になぜ日本が選ばれたのか

 ところでCNN報道では2019年、日本コカ・コーラのホルヘ・ガルドゥニョ社長が「コカ・コーラではアルコール飲料の世界展開を予定していない」と述べ、「この国の文化は非常に独特なので、ここで生まれた製品の多くはここにとどまる」と説明した。

 あれから2年。前述のようにアルコール飲料は世界各国で展開されるようになった。当時と今とでは日本法人の社内ムードも変わったのだろうか。

 「まず報道当時は、本当に世界展開の予定はありませんでした。それが『檸檬堂』で消費者が当社のアルコール飲料を支持していただくのを実感した。世界でもやっていく気運が高まり、『トポチコ』ブランドのグローバル展開につながっていきました」(関口さん)

 さらに「日本は新製品が非常に多く日々変化するようなイノベーション市場。アトランタ(米国のザ コカ・コーラ カンパニー)も日本市場の特性は理解しています」と説明する。

 成熟市場は「イノベーションマーケット」でもある

 この話で思い起こしたのが、かつて米国P&GのCEOを長く務めたアラン・G・ラフリー氏の言葉だ。「日本市場はラーニングマーケットであり、イノベーションマーケットだ」と話した。ラーニング(学び)とイノベーション(技術革新)。当時この言葉を知った筆者は、商品に厳しい(細かい)選択眼を持つ消費者との向き合い方、と理解した。

 酒類業界をラーニングした日本コカ・コーラから、「檸檬堂」に続く新たなイノベーションが生まれるか。清涼飲料の市場規模は約5兆円、酒類市場は同3兆5000億円といわれる。

 いずれも成熟市場だが、商品開発の現場では「成熟市場でも、まだまだできることがある」も共通認識だ。競合を含めた今後の活動を注視したい。

 高井 尚之(たかい・なおゆき)

 経済ジャーナリスト/経営コンサルタント

 1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

 (経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)(PRESIDENT Online)

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus