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「トヨタですら危ない」中国の激安EVが日本の自動車産業を潰しかねない理由 (1/3ページ)

 10月、物流大手のSBSホールディングス(東京都墨田区)が中国のEVトラック1万台を導入すると発表した。攻勢を強める中国勢に日本メーカーは耐えられるのか。「EnergyShift」発行人の前田雄大さんは「シェアを奪われるという程度の問題ではない。中国EVは、日本の自動車産業を根底から揺るがす恐れがある」という--。

 ■中国EVが「蟻の一穴」になる

 日本の自動車産業は脱炭素時代を生き抜くことができるのか。悲観せざるを得ないニュースが飛び込んできた。中国勢が本格的に日本の国内市場に攻勢をかけ始めたからだ。

 中国の自動車大手、東風汽車集団のグループ会社が、物流大手のSBSホールディングスに商用の小型電気自動車1万台の供給を始めたと、日本経済新聞が「中国が商用EV対日輸出 東風など1万台、競合なく」という見出しで、10月12日付の朝刊1面トップで報じた。

 報道によれば、佐川急便も2022年以降、中国の広西汽車集団から7200台のEV軽自動車の供給を受ける。比亜迪(BYD)というメーカーは、現価格帯の4000万円から4割値下げした大型EVバスの販売を進め、30年までに2000台を日本で販売する計画だという。

 脱炭素の流れを受け、日本の物流大手もEVシフトをせざるを得ない。そんな中、出遅れた日本勢の隙をついて中国勢が国内市場に入り込んでいる。SBSが導入する車両は1トン積載のEVトラックで、380万円ほど。同じようなディーゼル車とほぼ同価格だという。国の補助金が見込まれるうえ、コスト安が見込まれることから導入を決めたという。

 ネット上では、日本の自動車産業の今後を憂いた声が大勢を占めた。中国勢にシェアを奪われるという程度の問題ではない。日本の自動車産業そのものを破壊しかねない存在と言えよう。中国EVの対日輸出は、日本の自動車産業を揺るがす「蟻の一穴」になりうる--。本稿では、その理由を紹介したい。

 ■国産車のシェアを奪われるだけでは済まない

 脱炭素時代に物流大手会社が車両のEV化を進めること自体に驚きはない。注目すべき論点は、このEVが中国国内で、中国企業が組み立てを行うという点にある。

 これではもちろん、現行法上、中国で流通している仕様では日本の保安基準はクリアできない。例えば、中国で大ヒットしている50万円のEV、宏光「MINI EV」であっても日本の保安基準を満たさない限り、日本には上陸できない。基準をクリアしようとすれば安全性能を高めるなどの改良が必要で、50万円ほどの低コスト車両ではそもそも無理であろう。

 それでは、なぜ今回、中国EVが日本に上陸できたのか。ポイントは、EVの最終納品者が日本企業となっている点だ。

 SBSから依頼を受けてEVトラックの導入を手掛けるのは、フォロフライという京都大学発のEV開発スタートアップだ。この会社は国内で初めて「ファブレス生産」、つまり工場を持たず海外への委託・生産で宅配用EVのナンバーを取得。その実績から、今回フォロフライとSBSが組むことになった。

 フォロフライが進める「ファブレス生産」とは、自社で設計は行うものの、生産主体は別企業に委託する形態を指す。

 半導体の生産などでは、ファウンドリー、ファブレスという言葉は頻出であるが、ファウンドリーが受託生産を請け負うのに対して、ファブレスは自社工場を持たずに、生産をファウンドリーなどに委託する、俗にOEM(他社ブランドの製品を製造すること)と言われる形態をとる。中国EVが日本上陸を可能にしたのは、こうした生産側の事情がある。

 ■中国生まれの“なんちゃって日本車”

 SBSが発注した小型EVの生産を請け負うのが、冒頭で紹介した東風汽車集団だ。設計はフォロフライが行い、日本の保安基準を満たすように指示を出す。生産は東風汽船が手掛ける。名目上は“日本ブランド”になるが、報道のとおり実体は中国EVということになる。

 報道によれば、このEVは日本の道路運行上の保安基準をクリアし、国土交通省からナンバーを取得した。年内には性能試験が行われるという。その結果を踏まえ、22年から毎月数百台のペースで納入され、続々と実質中国製のEVが日本に上陸する。ネットショッピングで注文した商品を届けに、このEVが読者の自宅にやってくる日も来るだろう。

 中国EVを採用する日本の物流大手はSBSだけではない。SBSの発表からさかのぼること半年前の2021年の4月、佐川急便は中国EVを導入していく方針をクロステックのベンチャーASFと合同で発表した。

 SBSのフォロフライと同様に、このASFが、佐川が導入する中国EVの設計を担当する。プロトタイプはASFが企画・開発・製品管理などを行う一方で、製造を手掛けるのは広西汽車集団という中国の企業が担う。このケースにおいても、ASFが最終納品者になるという意味で「日本車」になるが、実態は中国製のEVとなる。

 なお、導入台数は、佐川は宅配事業で使っている全軽自動車7200台をEVに切り替える方針だ。佐川グループの全車両台数が2万7000台なので、3割近くが実質中国製EVに置き換わる。予定では2022年9月から首都圏などの都市部を中心に佐川急便の営業所へ納車される。1年以内にこのEVが日本の物流シーンに登場することになる。

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