都心部のマンション価格が高騰している。なかには販売価格が1億円を超える“億ション”もある。スタイルアクト代表の沖有人さんは「いま億ションを買うのはリスクが高い。1億円以上の価値があるマンション立地は限られており、一部の都心部を除けば今後は値下がりする可能性が高い」という--。
■“億ション”の購入はやってはいけない失敗
新型コロナの感染者数が急減する中で、旺盛だった住宅需要はどうなるのか?
家を買うために費やす時間は土日に集中する。不動産屋が水曜などの平日の週休2日なのもその理由からだ。平日も休日も家に長くいるからこそ住宅の「コロナ特需」は生まれている。しかし、土日祝日はレジャーや旅行に行く人が増えると曲がり角を迎えそうだ。
住宅は気持ちが冷めると、優先順位が圏外に落ちるものだ。それは過去の増税前の駆け込み需要とその反動減が何度も起きたことが証明してくれている。これから売れ行きが悪くなるとすると、いまやってはいけない失敗がある。それが「億ション」の購入だ。
■ここ5年の億ションの販売数はほとんど増えていない
新築分譲マンションも、中古マンションも、新築分譲戸建ても、注文戸建ても現在の売れ行きがいいことは疑いようがない。平均販売価格は上がっていることも確かで、新型コロナで外出自粛になってから価格の高騰の仕方はそれまで以上になっている。
主な要因は需要の急拡大による需給バランスの逼迫(ひっぱく)にある。そんな中、「億ションが飛ぶように売れる」などと販売側への取材だけで書かれる記事も散見される。だいたい、不動産屋の言うことを真に受けてはいけない。彼らほどうそがうまくなる業種を私は知らない。
だから不動産の調査を長年やっていると、ヒアリング結果は必ず数字で裏を取ることにしている。半分程度はうそが混じっている。それは悪意がない勘違いも多いが、いずれにしても真に受けるお人よしはだまされるだけだ。
その証拠に、新築分譲マンションの億ションの数はここ5年ほとんど増えていない。平均価格が上がっているからこそ、さぞかし億ションの割合は増えていると勝手に思い込むが、2015年1688戸、2016年1265戸、2017年1928戸、2018年1800戸、2019年1866戸、2020年1818戸である(不動産経済研究所調べ)2020年は2015年比で108%しかない。
デベロッパーがこのように明らかな慎重姿勢になるのは、億ションを買える人は限られているし、億ションは立地が限定されるため、一定期間で売り損ねると売れ残る可能性が高いことを長年の経験で知っているからだ。
デベロッパーは1戸でも売れ残ると販売センターを閉められず、コストがかさみ、集客が難しくなり、値引きで大損を出すことになる。過去にそうした物件が大量にあったということだ。売れ残りは財務諸表に販売用不動産(売り物)としていつまでも置いておくことはできず、固定資産(自社所有の運用資産)に振り替えられる。
そんな物件が多数あるのが、デベロッパーの記憶から消えるわけがない。全戸売り切るということに対して、新築のデベロッパーと中古の個人ではスタンスが全く違うと思ってもらったほうがいい。
■億ションが売れる立地は非常に限られている
新築マンションの単価が高くなる中で、分譲価格は単価ほど高くなることはない。専有面積が小さくなっているからだ。
デベロッパーは分譲価格を高くすると、売れ行きが悪くなることに非常にナーバスだ。だからこそ、商品企画としての面積を小さくし、価格を低く抑えようとする。これには住宅ローンの上限が原則1億円であることも関係している。頭金を何千万円も用意できる人はそう多くないのだ。
億ションが売れる理由にパワーカップルが増えているからというのが言われることが多い。これはストーリーとしての納得感だけはあるが、実態を説明するだけの裏は取れない。共働き世帯の購入割合が増えているのは事実だが、ペアローンを組む人はほとんど増えていない。その割合は8組に1組程度しかないし、高額帯を買っている人の多くは1人の住宅ローンであることのほうが圧倒的に多いことは以前とほぼ変わっていない。
さきほど、新築億ションの供給戸数は2020年で2015年比108%と書いたが、中古では155%まで増えている。デベロッパーが実態以上に控えめなのがここで分かる。その理由は立地にある。
億ションが売れる立地は非常に限られているからだ。新築の際には、販売センターで実物を見ることなく、気分を高揚させて売り切ることがあり得るが、中古では現地に行き、実物を見て決めることになる。現実に直面しながら決断するので、妄想が働く余地が少ない。
現地の周辺環境、居住者の身なり、リビングからの眺望、1億円以上の対価に見合う満足感などが購入決断には必要になる。その中でも最も影響が大きいのが、立地である。