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災害時の移動抑制は正しい? 首都圏地震後「シェアサイクル活況」に見る対策 (1/2ページ)

SankeiBiz編集部
SankeiBiz編集部

 10月7日夜に首都圏が東日本大震災以来10年ぶりの震度5強の揺れに見舞われ、28日午前にも、茨城県で最大震度4を観測する地震があった。地震が相次ぐ中、大都市における災害時の避難の在り方を見直すべきだとの声が上がっている。東京都は大規模災害時の対応として、交通渋滞や二次災害の発生を回避する観点から、原則として「大規模災害時はむやみに移動しない」と呼びかけてきた。一方、7日夜の地震では鉄道の運転見合わせの影響を受けた帰宅困難者が自転車を共同利用する「シェアサイクル」に流れ、東京都にとっても想定外だったようだ。シェアサイクルという新しいサービスが広がることで最適な避難方法も変化しているとみられ、従来型の災害対応には“盲点”があるともいえそうだ。

 「安全な場所にとどまる」ことが難しい状況も

 2011年3月11日の東日本大震災では首都圏で鉄道の多くが運行を停止し、道路でも大規模な交通渋滞が発生した。発生時刻が平日の日中であったことが影響し、内閣府の推計では首都圏の帰宅困難者は約515万人に及んだ。

 東京都が災害時の一斉帰宅の抑制を求める最大の狙いは、交通の遮断によって消防車などの緊急車両の対応が遅れる事態の防止だ。また帰宅困難者が一所に集中する「群衆雪崩」によって起こり得る二次災害を回避する目的もある。都は「人命救助のデッドラインである72時間はむやみに移動せず、安全な場所にとどまってほしい」と呼びかけている。

 しかし、今月7日の地震発生時刻は平日の夜10時41分。職場などの出先を離れ、帰途に着く人々の中には「安全な場所にとどまる」ことが難しかった人も少なくなかっただろう。「帰宅困難」の記憶が甦る中、人々が真っ先に足を向けたのは10年前には存在しなかったシェアサイクルだった。

 都内12区に約960カ所のポート(自転車置き場)を設け、約9400台の電動アシスト付き自転車を提供している最大手のドコモ・バイクシェアによると、主に企業が集中する千代田区や港区など都心部での利用が急増。ほとんどのポートで利用可能台数が0台になり、多くは江東区や大田区など住宅地で返却されていた。地震発生後から翌朝5時までの利用回数は前日比165%に達した。

 一方、東京、神奈川、埼玉エリアを中心に約2,000カ所のステーションと約8,200台のシェアサイクルを展開する「ダイチャリ」の運営会社であるシナネンモビリティPLUSによると、地震発生直後、東京都内の主要駅付近にある全ステーションから自転車が消えた。特に都心から郊外(住宅街)への利用が目立ち、利用回数は23時~25時に通常時の約3倍となった。

 この状況に東京都の関係者も「こういうシェアサイクルの使われ方があったかという思い」と驚きを隠せない。大規模災害時に移動を避けるよう求める東京都の原則には専門家からも異論が出ている。

 「『動かない』というのも一つの計画だが、現在の防災計画は避難手段が車か徒歩のどちらかしか想定されていないことがそもそもの問題」と指摘するのは、自転車評論家でNPO自転車活用推進研究会の理事を務める疋田智氏だ。「状況によっては人の動きは制御できない。避難方法を含め、被災時の人流や渋滞問題の根本的な対策には、交通を遮断しない自転車も移動手段として想定に含めるべき」という。

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